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千葉・限界分譲地のリアル「スローライフもミニマルライフも実現しない」そもそも田舎暮らしは節約に向いていない

集英社オンライン / 2024年3月2日 10時1分

「資産価値ZERO─限界ニュータウン探訪記─」という登録者数16万人のYouTubeチャンネルを運営する、吉川祐介氏。首都圏や都市部での住宅価格の高騰が続くいっぽう、かつて郊外で栄えた「ニュータウン」の現在をレポートする内容で人気を博している。新著『限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話』より、自身が生活し、“節約に向かない街”と形容する千葉県の横芝光町でのリアルな生活を一部抜粋し紹介する。

この地に居を構えたのは単なる成り行き

僕の現在の職業は、便宜上文筆業を自称しているものの、収入の割合で言えば運営しているYouTube動画の広告収益のほうがずっと大きく、厳密に分類すれば「広告業」となる。YouTubeの収益のほか、印税、メディアへの寄稿記事の原稿料、たまに依頼が来る講演の報酬などで生計を立てている状態だ。



単純に収入面の向上だけ考えるのであれば、おそらくYouTube動画の制作に注力するのが一番効率的だとは思うが、あくまで再生数のみに応じて収益が決まるYouTubeは、作る動画によって再生数に大きなばらつきがあり、どうしても収入が不安定になる。

いくらYouTubeの世界が激戦区とはいえ、僕の作る動画は最初から視る者を選ぶ内容であり、あまり他の配信者と競合するようなものではないとは思うが、その代わり爆発的に人気が出るようなコンテンツでもないし、所詮は属人性の強い人気商売でいつ凋落してもおかしくないので、たとえ収入が下がるとしても、基本的には原稿や講演の仕事を優先している。

こんな言い方をしては何だが、僕は自分の生計が立てられれば、動画でも文章でも講演でも何でもよいのであって、その中で文章を書くのが一番自分に向いているから文筆業を自称しているに過ぎない。その程度の職業意識なので、自ら肩書を付けて名乗ることもしないようにしている。

しかし、優先する仕事がどれであろうと、基本的に自宅で仕事をしているフリーランスという立場になるので、おそらく交通不便なへき地の分譲地に住むのであれば、これが最も適した仕事だとは思う。依頼主のメディアの担当者との連絡や打ち合わせもすべてオンラインで済ませているので、講演以外で都心まで出向く必要もなく、取材さえ怠らなければ仕事は自宅で完結させることができる。

けれども、僕はこうした在宅仕事のスタイルに合わせて限界分譲地に居を構えたのでは決してなく、現在の生活は単なる成り行きにすぎない。

写真はイメージです

僕は2017年の初頭に、妻との入籍を機会に東京から千葉県の八街市に移り住んだのだが(その後、芝山町を経て横芝光町へ転出)、その最大の理由は賃料の安さと、大型免許を取得し、成田空港の周辺で、大型車の運転の仕事に従事するためだった。

空港周辺では恒常的に運送業の人材を募集しており、なおかつ賃料や中古物件の価格も安いので、そこで大型の免許を持っていれば、生活に行き詰まることはないのではと考え、大型二種免許の取得支援を行っている成田市内の路線バス会社に運転手として就職したのだ。

そのバス会社の営業所の所在地や勤務体系は、公共交通機関でまともに通勤できるようなものではなく、運転手、事務員ともにほぼ全員が自家用車で通勤していた。

自家用車は不可欠

僕が住んでいるような限界分譲地の住民は、通勤も含めた日常生活における移動のほぼすべてを自家用車で済ませているのが一般的である。元々最初から自家用車の利用を想定した分譲地であるし、今日の公共交通網の貧弱さでは、勢いそうならざるを得ないとも言える。

車を持たない都市部在住の分譲地の所有者が、今となっては自分の所有地にまともに足を運ぶ機会すらないのは、年齢のほかにこの貧弱な交通事情にもよると思う。

町内の商業施設に買い物に行く程度であれば、本数の少ないバスの運行時間に合わせて移動することは可能だとは思うが(実際にそうしている高齢者もいる)、勤務先が鉄道駅から離れた場所に立地しているのでは、へき地の分譲地でなくても自家用車を選択せざるを得ない。

車を持たずに生活するのが一番経済的であろうことは、日々の燃料費やその他諸々の維持費・税金で痛感しているのだが、すでに通勤のために自家用車を確保している以上、それを置いて公共交通機関を利用するよりは、その車で移動したほうが効率的なのだ。

我が家も現在2台の自動車を保有している。今の生活習慣を考えれば、1台だけで間に合わなくもないのだが、取材時に使うMTの四輪駆動車(別荘地は悪路が多い)と、AT限定免許の妻も使用する軽貨物のAT車の2台を使い分けている。

すでに退職しているとはいえ僕もタクシーやバスの運転手としての経験があるので、公共交通網が衰退していくことの危機感も一応はある。しかし日々の生活や仕事を考えると、やはり自家用車のほうが圧倒的に楽であり、時間の節約にもなるので、結局は「バスに乗る」という行為そのものを目的としない限り、日常生活で公共交通機関を使うことはほとんどないのが実情だ。

唯一、飛行機が好きな妻と成田空港へ遊びに行く際は、空港の有料駐車場に駐車するより安上がりに済ませられる空港行きの路線バスを利用している。

車で10分の国道沿いのモールでほとんど事足りる

自宅の近所には商業施設が少ないので、Amazonなどのネット通販に頼る機会も多いが、買い物に行く際は可能な限り複数の用事をまとめて済ませるようにしている。

既存の商店街が衰退した現在の地方都市はどこも同じ状況だと思うが、僕の住む千葉県横芝光町にも、市街地の国道沿いに、スーパーマーケットやドラッグストア、100円ショップやホームセンター、コインランドリーが一体となっている小規模なモールがあり、大体いつもそこで一通り日常の用事を済ませてしまう。

飲料など、まとめ買いを行う際は、少し足を延ばして近隣自治体のディスカウントショップに行くこともある。小規模なドラッグストアやスーパー、コンビニであれば近所にもあるので、簡単な買い物であれば近所で済ませることも多い。

モールまでは車で10分強程度の距離なので、車がある限りは、そこまで無理に買い溜めをしなければならないほどの極端なへき地に住んでいるわけではないのだが、近年は燃料も高騰しているし、毎日買い物に出かけるのも億劫なので、いつもある程度はまとめて買っている。

そうなるとますます、すべて手荷物として運ばなくてはならない公共交通機関よりも自家用車での買い出しに分があるわけで、こうして改めて振り返ると、今の生活は本当に車ありきの前提で成り立っているものなのだと痛感する。

写真はイメージです

コンビニでは野菜が山積みになって売られている

ところで話は少しそれるが、現在の地方都市では旧来の商店街や個人商店は衰退の一途をたどっており、地元住民は大手のチェーン系列店やフランチャイズ店で日用品を購入するのが一般的になっている。しかし、店舗自体は東京に本社のある大手資本の系列だとしても、そこで働く従業員は地元の住民であるし、買い物客も地元住民なので、一歩踏み入れば田舎町の流儀に支配されているケースもある。

それがもっとも顕著なのはコンビニエンスストアで、これはもう従前の個人商店がそのままコンビニに置き換わっただけと言っていいようなお店がある。

僕の前著は地元のコンビニエンスストアでアルバイトをしながら執筆していたものだが、店に来るお客さんはいつも同じ顔ぶれで、しばらく働いているうちに、どのお客がどのタバコを買うか、どのお客がレジ袋を必要としているかまで記憶してしまった。

地域で長く営業を続けるオーナーは、そんな馴染みのお客さんに対して敬語すら使っておらず、よく雑談に興じていた。周辺にスーパーマーケットが少ないコンビニでは、店の外まで所狭しと野菜が積まれて販売されているのはもはや普通の光景であるし、外観は無機質に見える大手フランチャイズであっても、個人商店の流儀がそのまま生きているコンビニは、商品価格や品ぞろえだけでは判断できない役割をも果たしているように思える。

田舎暮らしは節約に向いていない

話を戻すとして、前述のように僕の移住の動機は一番に経済的な事情であって、それ以外に、例えば田舎で起業したいとか、そんな明確な目的意識を持って千葉県に移住してきたわけではなかった。妻と知り合った時はたまたま都内に住んでいたというだけのことで、これまでの人生の中では、僕は田舎町で過ごした時間のほうが圧倒的に長い。

都会と田舎、どちらが好きかと聞かれればもちろん田舎とは答えるが、それは憧れがあったというよりは、自分にとっては田舎の方に馴染みがあるからにすぎず、年齢的にも今さら田舎で何か新しいことに挑戦する気にもなれなかった。むしろ、大げさな言い方になるが、僕は入籍を機会に、自分の人生の整理を始めるつもりで千葉県にやってきたのである。

田舎暮らしに関する情報を見ていると、例えば「スローライフ」といったような一面的なイメージの文言を見かけることがある。だが、僕は田舎での暮らしがのんびりできるものだとは思わないし、率直に言って田舎暮らしは節約にも向いていないと思う(できないわけではないが)。

近年、無駄な持ち物を持たない「ミニマリスト」という暮らし方が時折メディアに登場するが、あれこそ田舎暮らしの対極に位置するものという気がする。都会ほどサービスが充実していない田舎では、どうしても自分でこなさなければならない用事が増えるので、そのために必要な道具(例えば草刈りの鎌など)は増えていく一方である。

買い置きをしたり道具をそろえるのであれば、当然その保管スペースも必要になってくる。

娯楽に関しては、もちろん都会のような娯楽施設はないので、そういったところに出向いて余暇を過ごすことはない。せいぜい、たまに妻と成田市や千葉市などの大型商業施設に出かける程度であろうか。

僕自身は昔から都会でなければできないような趣味を持ったことがなく、都会でやることと言えば古本を買って回る程度だったので、あまり自分の嗜好を一般化して語れるものではないとは思うが、特に退屈で不満に感じることはない。

日々流れる時間は平々凡々

日常生活にせよ娯楽にせよ、こうして普段の自分の生活を改めて文字に起こしてみると、自分で読み直しても、今の限界分譲地での生活は、都会の生活と比較してどこにメリットがあるのかわからなくなってくるが、それでも僕自身にはもう都会に戻る意思はない。

高齢となって自家用車の運転が困難になったとしても、(それが可能であるならば)居住地として選ぶのは、せいぜい人口数万人クラスの小都市ではないだろうか。このあたりの感覚は、たぶん都会志向の方と話しても平行線のままなので、僕は普段、ブログでも動画でも、積極的に移住を勧めることはない。

僕が自分のブログや動画で発信しているのは、その大半がデメリットやリスクを中心に語るコンテンツなので、そもそも僕の発信物を見て移住の欲求が湧く方もまずいないとは思うが、おそらく田舎を居住先として選ぶ人は、僕が改めてどうこう言うまでもなく、また大仰な自己実現の目標を立てることもなく、自分の中ではごく当たり前の選択肢として田舎町を選択するのではないかと考えている。

今の僕は確かに、いわゆる「ユーチューバー」という部類に属する者なのかもしれないが、仕事として取材や動画編集を行うこと以外に、何か特筆できるような風変りな生活を送っているという自覚もない。生きていてつまらないわけではないが、そんな刺激的なイベントが頻繁にあるわけでもなく、日々流れる時間はきわめて平凡なものである。

写真/shutterstock

限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話(朝日新聞出版)

吉川祐介

2024年1月12日発売

957円

240ページ

ISBN:

978-4022952523

各界より絶賛の声!

「独自取材を重ね日本社会の暗部に迫った一冊」――原武史(政治学者)

「興味津々で奇々怪々……不動産の魑魅魍魎!」――春日太一(時代劇研究家)

YouTube再生回数2000万回超! 「限界ニュータウン探訪記」配信者、渾身の書き下ろし!

嘘八百・誇大広告、デタラメ営業、乱開発……高度成長期・バブル期の仰天販売手口を紹介し、「資産価値マイナス物件」が再び分譲されている現状を明らかにする

(目次)
第1章 取り残される限界ニュータウン
第2章 限界ニュータウンはこうして売られた
第3章 原野商法の実相
第4章 変質するリゾートマンション
第5章 限界ニュータウンの住民
第6章 限界ニュータウンの売買
第7章 限界ニュータウンは二度作られる

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