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欧米で痩せ薬として爆売れ、でもダイエット目的には使えない…30年ぶりの肥満症治療の新薬「ウゴービ」が抱える「ニーズと乱用」の問題

集英社オンライン / 2024年3月1日 18時1分

実に30年ぶりの保険適用となった肥満症の新薬「ウゴービ」が、2月22日に販売開始された。肥満症治療の新しい選択肢として期待される一方で、この薬にはネガティブな意見もつきまとう。ウゴービは、実際に痩せる効果がある薬だ。だからこそ、提供・使用するうえでいくつかの問題がある。ウゴービが抱える現状の問題点とは?

2つの効果があるパワフルな薬


「ウゴービ」(一般名:セマグルチド)とは、いわゆる「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれる薬の一種だ。投与することで、体内で「インスリン」というホルモンの分泌を促す。

インスリンには第一に、血糖値を下げる働きがある。そのためGLP-1受動態作動薬は、もっとも多いタイプの糖尿病である「2型糖尿病」の治療薬として、血糖値が高い患者に対して、それを下げる目的で長らく使われてきた。



また、インスリンには食欲を抑える働きもある。そのためGLP-1受動態作動薬は、欧米では肥満症の治療薬としても使われている。食欲を抑えれば自然と体重が減り、肥満症も治療できる、というわけだ。

ウゴービは欧米を中心に利用者が急増しているが、日本でも2023年3月に新しい肥満症治療薬として薬事承認された(世界で9カ国目)。製造販売元のノボノルディスクファーマ株式会社は「肥満症の適応で承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬」と謳う。しかし、その成分は同社が製造販売する2型糖尿病治療薬「オゼンピック」と同じである。

2023年3月に日本で薬事承認された新しい肥満症治療薬「ウゴービ」(写真/shuterstock.com)

誤解されがちなことだが、ウゴービは“気軽なダイエット”には使えない。

服用できるのは「高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る」とされ、「BMIが27以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する」か「BMIが35以上」の人のみ。つまり、「すでに食事と運動習慣の改善に取り組んでいて効果がない」うえ、「治療が必要になるほどの肥満の人のみ」が、この薬を使えるのだ。

ウゴービを取り巻く問題の本質は、ここにある。

噛み砕いて言えば、「糖尿病を治療できるほどパワフルな薬が肥満解消にも効果があるのに、一般的なダイエットには使えない」という構造だ。

つきまとう構造的な問題

ダイエットは治療が必要になるほど肥満な人ばかりではなく、美容や体型維持においてもニーズが高い。そうした状況で何が懸念されるかいうと、2型糖尿病患者への治療薬が、気軽なダイエットなどにおいて「適応外」で乱用されることだ。

厚生労働省は昨年7月、「GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」という事務連絡を各都道府県等の衛生主管部に発出した。適応外でGLP-1受容体作動薬が乱用されると、2型糖尿病患者にこの薬が行き渡らなくなるという危機感が、医療関係者を中心に高まっていたからだ。

ウゴービは2023年5月と8月に薬価収載・保険適用が見送られた経緯があるが、日本での販売の見通しが立たなかったのは、このような背景による。これまで気軽なダイエット薬として購入できたGLP-1受容体作動薬は、基本的に肥満症治療と同じ成分のものが自由診療等で適応外で処方されたものだった。

適応外で処方されるGLP-1受容体作動薬について、厚労省や消費者庁、国民生活センターは「糖尿病でない人への安全性と有効性は確認されていない」として注意喚起を繰り返してきた。なぜなら、その副作用として吐き気・下痢・嘔吐といった胃腸障害だけでなく、低血糖、急性膵炎、胆嚢炎など重篤なものもあるためだ。

そんなウゴービが2023年11月、薬価収載・保険適用されることになった。ノボノルディスクファーマは、ピーク時で10万人に投与され、328億円の市場規模があると予測している。使用にあたっては、厚労省のガイドラインに基づくことが求められる。

厚生労働省が昨年11月に公開したガイドラインは、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のホームページで確認できる

「薬で痩せる」という危険な魅力

そして2月22日、ついに発売になったウゴービ。

現状の問題を整理すると、結局のところ「一般的なダイエット目的においては、ウゴービはどこまでいっても“適応外”であることから逃れられない」ということになる。

この「適応外」には二重の意味があり、一つは「2型糖尿病患者への薬が、気軽なダイエット目的に使用されること」、もう一つは「治療が必要な肥満症患者への薬が、気軽なダイエット目的に使用されること」だ。

これはウゴービが安定供給されることが前提条件になるが、今回の保険適用により、2型糖尿病治療薬の適応外使用は少なくなるかもしれない。2型糖尿病患者の命に関わる“品薄状態”が発生しなくなるのは、前進といえるだろう。

しかし美容や体型維持のニーズが高いことを考慮すると、その意味での適応外使用はこの先も減らないだろう。ウゴービが安定供給されなければ、一部の医療機関がまたも2型糖尿病治療薬の適応外使用に走ることも起こり得る。

今回の保険適用により、逆に言えば「薬で痩せる」ことが可能だと周知されてしまった。人間の欲望は限りなく、食事制限や運動よりも簡単に痩せられると知れば、多くの人が興味を持つことだろう。

しかし、それは本来、重篤な副作用のリスクを伴う行為だ。こうしたデメリットを、治療のメリットが上回ったときのみ、薬が処方される。つまり、気軽なダイエットのためにウゴービを使うことは、最初からデメリットのほうが大きい行為になる。

特に自由診療などの適応外での処方は、市場の原理が働きやすく、ニーズが高ければそれが提供される。しかし、生活者はそれを求めるべきではない。そして同時に、提供する医療者側の倫理観も問われているのだ。

文/あまのなお

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