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「剣の達人が鞘から刀を抜かずに勝てるのか?」サムライギタリスト・MIYAVIが挑むギターを持たない戦い「痛みの中でしか見つからないものがある」

集英社オンライン / 2024年4月5日 18時0分

デビュー20周年を迎えた日本が誇るギタリスト・MIYAVI が2部作となる最新アルバム『Lost In Love, Found In Pain』の1作目『Lost In Love』を4月3日にリリースした。全編英語詞で綴られたコンセプチュアルな本作は、自身のキャリアに名を刻む画期的なアルバムだ。世界を舞台に挑み続けるMIYAVIに、最新作や表現に対する思いを聞いた。(前後編の前編)

時代を超越したテーマに向き合うときが来た

――2020年の『Holy Nights』と2021年の『Imaginary』は、コロナ禍が重なったこともあり、そんな困難な時代に向き合って作ったアルバムでしたよね。

MIYAVI(以下、同) そうですね。



――その点、今回の『Lost In Love』は今やりたい表現をピュアに追求したアルバムだと思うのですが、「Duality(二面性)」というテーマや2部作の形態も含めて、このアルバムを作るに至った経緯は?

アルバムを作る上では、時代時代で自分に影響を与えたこと――たとえばコロナや難民支援の活動も含めて、僕が感じたものから自然に生まれてくるものがあって。今回も、ウクライナ情勢やイスラエルとパレスチナの問題に対しても自分なりに思うことがあって、そこから「Tragedy Of Us」という曲を書きました。

だけど、今回の根本にあるテーマは、自分と対峙すること。

「強さとは何か?」って考えたとき、その強い、弱いっていうのは結局、比較でしか判断できなくて。比較しなければ何もなくなって自分しか残らないけど、じゃあ、そのときに自分とどう対峙するかというと、――いろんな要素がありますよね。そこでは自分の中にある理性と本能、強さと弱さ、喜びと悲しみというような、二面性を見なければいけないと思うんです。

僕自身でいうと、たとえば(国連難民高等弁務官事務所=UNHCR)親善大使としての僕は、ポジティブなことを歌っていたいし、聴いてくれる人たちに、聴いてよかった、そしてもっと強くあるためにがんばろう、と思ってもらえる活動をする。だからそういったメッセージ性を楽曲に込める。でも一方で、僕自身も弱い部分や葛藤、いろんな悩みや欲望を抱えたひとりの人間として生きていて、そういった光と闇のような二面性は、確実に存在している。

僕たちは、なぜ生きているのか。いつかは来る死に向かって毎日を過ごしているわけじゃないですか。そんな中で自分とどうやって向き合っていくか。僕もそういう感覚で自分と向き合ってきたし、今後、時代を超越して残る作品として、人間の強さと弱さ、光と影。そこを大きなテーマにアルバムを作りたいと思ったんですよね。

そういった二面性というテーマの持つコントラストを根幹に、いろんな色の、いろんなベクトルの楽曲を作ろうと思って取り組んだのが今回のアルバムです。

自信に溢れた強い自分の中にいる弱い人間

――このアルバムではショッキングな描写も多くて、主人公である自分を、もうひとりの自分が攻撃したり、壊したりするわけですよね。世界で活躍するロックスターであり、パーフェクトなMIYAVIという存在と、原点としてのやんちゃなギターキッズのMIYAVIのふたりがずっと戦い続けているというストーリーを、全編で描いていると感じました。

そうですね。僕のパブリックイメージって、自信があって、ギターを鳴らして「Be Strong!」って言い続けているような強い人で。もちろんそれも自分ではあるし、自分でも強くなったと思う。だけど、その中にはいつも弱さもあるんですよね。そういう弱い自分と対峙をしてきた結果が強い自分であり、さらに強くありたいと今も思っている。そしてこの対峙のプロセスは、強くても弱くても変わらないはずなんです。

だから僕はこのアルバムの曲が、聴いてくれる人たちにとって自分が自分に向き合うための歌であってほしいし、自分の弱さと向き合うとき、僕、私だったらこういられるんじゃないかって気付ける楽曲であってほしい。

単純に言うと、今までは、「強くなろうぜ!」で終わっていたけど、その強くなるプロセスを「こうすればいい」ではなく、自分がたどるプロセスを表現した上で伝えたいと思ったんですよね。だから今回、歌詞も世界観も、すごく時間をかけて作りました。

『Lost In Love, Found In Pain』というタイトルも、文字通りこのアルバムをまさに表現していて。普通は、痛みの中で見失って、愛の中で救われるはずなんだけど、その逆で。僕たちは、人や物や街、夢もそうですけど、愛するものの中で時に自分を見失ってしまう。そして、苦しい時間や受けた痛みの中で本当に一番大事な自分を見つけることができる。自分の痛み、弱さ、苦しみやかっこ悪さみたいなものと対峙しないとそれって見つからない。だから、すごくストイックな意味合いも含んでいると思います。

自分の痛みに向き合う表現は過去の追体験


――そうした楽曲を作る上でMIYAVIさん自身の苦しみや痛みに向き合うのは、身を削るような作業では?

いや……僕は、自分の中にある弱さや闇、特に小さい頃に感じたことを掘り返しながら楽曲を作って、パフォーマンスしていくわけですけど、それを追体験としてとらえていて。今はそれを俯瞰して見る余裕もあるし、自分に戻ってくることもできる。だから、どこかで過去の自分を演じてるのもかもしれない。そこは俳優業をやってるのが活きてるのかもしれないけど、昔あったものも含めて、自分の中の感覚や気持ちを掘り起こして、今の自分というフィルターを通して表現するという感覚に近いのかな。

――どう生きるのか、どう自分と対峙するのかという、誰にとってもパーソナルなテーマを描いているものの、メロディや音や歌はスケールが非常に大きいですよね。

本当ですか? 作っていると客観的に見られなくなるから、このアルバムが、ずっと聴いてくれているファンとか、新しくMIYAVIを聴く人たちにどう聴こえるのかやっぱりわからないんですよね。今回、全編英語ですし。ただひとつ言えるのは、自分の中で新しい境地にたどり着けたアルバムだとは思っています。

 剣の達人が刀を抜かないで勝てるのか?という挑戦

――新境地だと感じるのは、具体的にどういう部分ですか?

完全にボーカルワークです。ボーカルワークが自分の楽曲への関わり方すらも変えてくれた。僕はサムライギタリストなんて言われて、ギターをギャンギャン弾いてきて。今もギターで世界を踊らせるっていう気持ちは変わらない。だけど、そこだけじゃだめだという気持ちもずっとどこかであって。「剣の達人が鞘から刀を抜かないで勝てるのか?」っていうのが、僕のテーマだったんです。僕はアーティスト、フロントマンとしてそれを見つけたかったし、今回のボーカルワークで、その呪縛から解き放たれたかなと思ってます。今回、僕がギターを弾いてない曲や弾いてない場面もたくさんあります。

そうすることで、自分のメッセンジャーとしての尊厳や存在理由が変わったし、より大きくなったと思います。もちろんギターはそこに包括はされているけど、“それだけ”ではなくなった。楽曲を届けるために僕は歌うし、ギターを弾くし、パフォーマンスをする。今、ようやくアーティスト、メッセンジャーとして存在し始めてるのかなと思います。

――このアルバムでは、歌詞も歌唱も含めたストーリーテリングの力が非常に高いですよね。

そうでしょ? 今までは、「腹減った!」「じゃあ、ほら飯、食え!」で終わってたんですよね(笑)。でも実際、がんばれって言われてもがんばれない人のほうが多いから。子育てもそうですけど、「そっち危ないよ、行っちゃダメ」って言うのは簡単なんですよ。でも、それだと成長しない。そっちに行って危険な思いをしたり、怪我したりとすることによって、自分の中で危機意識が生まれる。親として、そのガイドをしてあげるのが僕たちの役目であって。

音楽は子育てだとは言わないけど、やっぱりどこかに啓蒙する部分はあるじゃないですか。逆に言うと聴く人たちのマインドや生き方を変えるすごく大きなパワーがある。聴いたことで経験できる、要するに、少し遠回りできる。僕は今までずっと、直線でゴールに行けって言ってたんです。そうはなくて、どういうプロセスを通るべきなのかを提示する。そのためのワールド(世界)を作ることに着目したんです。

取材・文/川辺美希 撮影/村井香

ジャケット/ヴェルサーチェ ジャパン
〈問い合わせ先〉www.versace.jp
スタイリング/櫻井賢之[casico]
 

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