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東大に蔓延する女性差別の伝統“東大女子お断り”サークルの実態…優位なジェンダー秩序を維持するための「他大女子への”バカいじり”」

集英社オンライン / 2024年4月4日 11時0分

なぜ東大生の8割は男性なのか?「男女比の偏りが慢性的な差別的発言を生んでいる」という女性学生の危機意識〉から続く

東京大学には、「東大女子お断り」を堂々と謳うサークルが現在も存在し、伝統という名のもとに放置されているという。本記事ではその衝撃の実態を、現役の東大教授が書き下ろした書籍『なぜ東大は男だらけなのか』より一部抜粋・再構成し解説する。

サークル問題

東大は学生の課外活動が盛んである。授業の外で学生たちが集まり、スポーツや文化活動に打ち込む。スポーツは野球、サッカー、テニス、柔道、相撲などの主要なものから、馬術やヨットなど、都心にあるキャンパスからは容易に想像できないものまである。

文化系も演劇、将棋、オーケストラ、ピアノからレゴや襖張りまで、およそ考えつくものはなんでもある。新入生を迎える駒場キャンパスは4月になるとこれらの課外活動を宣伝する看板でいっぱいになる。上級生がキャンパス中でビラを配り、とても賑やかになる。



部活動やサークル活動は学生にとって、1年生の「クラス」と同じく重要な学生生活の単位となる。ここで卒業後も関係の続く生涯の友人に出会うことも少なくない。

序章でも触れたが、これらの課外活動で、一部、男女のメンバーがいるのにもかかわらず、女性は他大学の学生に限定して東大の女性の入会を認めないサークルがあることが、近年、新聞報道などで話題になっている。

この問題をテーマにして2020年、東京大学教育学部に卒業論文を提出した藤田優は、東大女性を排除するサークルを運営する東大の男性学生を厳しく批判している。

彼女の調査によると、そのようなサークルでは「食事作りやお酌、練習後に行く飲食店のドアの開閉に至るまで、ご飯にまつわるものはすべて女子の役割、といった『男尊女卑ルール』」がある一方、「東大男子だけが主要な幹部になれる『男子中心運営』」が行われていた。また、「即席のクイズ合戦で東大男子から他大女子への『バカいじり』」が慣行となっていた*1。

藤田はこれらのサークルに所属する「東大男子」は「『東大女子お断り』を明確に差別だと認識せず、伝統を無批判に踏襲」していることを指摘し、この「閉鎖構造は、東大女子を入部させないことにより男子にとって優位なジェンダー秩序を維持するのに寄与している」と論じる。

「自分達より偏差値が低く、かつ華やかで自分達のサポートに回ってくれる(引用者註:他大学の)女子は、東大男子にとって都合の良い存在」なのである。さらにそのようなサークルに入っていない男性の学生についても、「機会の不平等を問題視する声はあったが、積極的に否定」する声は少なく、「『東大女子お断り』という差別問題に対する東大男子の鈍さ」がうかがえると分析している*2。

大学側も放置

排他的なインカレサークルがいつからあったのかは明確ではないが、1980年代にはすでに存在していたようである。しかし東大はこの差別的慣習を、学生自治への介入を避けるとする観点から、長いあいだ放置してきた。

大学執行部が初めて声明を出したのは2015年3月である。元教養学部長で学生担当理事の長谷川壽一教授は「残念なことに学生団体の中には、加入を希望する者に対し、国籍、性別、年齢等により、入会等の制限を加えている団体が見受けられる」ことを指摘し、「自主的・自律的」にそのような制限を再考するよう促した。翌年の2016年にも、引き続き同様の声明が当時の学生支援担当理事(南風原朝和教授)から出された。

これらの声明は学生自治に配慮し、差別を禁止するのではなく、あくまで学生が自らそのような排除をしないようにすることを呼びかけるにとどまるものであった。その呼びかけに対して、男性を中心とする学生の動きは極めて鈍かった。最初の声明が出た直後の2015年4月のサークル勧誘では、相変わらず堂々と東大女性を排除しながら他大の女性の存在を宣伝するサークルが複数あった。

むろん、このようなサークルの存在を問題視する意識が学生になかったわけではない。2016年6月には『東京大学新聞』がこのことを取り上げ、学生に対する調査を行った。その結果、「他大女子限定サークル」の存在について「改善すべき」と回答した学生は45.9%いた。とはいえ、31.9%は「問題はあるが、改善する必要はない」、14.8%は「問題ない」、7.4%が「分からない、関心がない」と答えていた。

学生の半数近くがこのようなサークルは改善すべきとしていたが、それとほぼ同数は藤田が言うように東大女性を公然と排除する学生コミュニティを擁護、ないしは黙認して良いと考えていたのである。

その理由は「ジェンダー的な問題がないとは言えないが、勧誘する側には入れる人を選ぶ権利がある」「改善するに越したことはないが、あくまで各サークルの自由」「サークルの多様性を制限するべきではない」「性別で限定することで育まれたサークル文化もあるはず。安易に非難すべきではない」などというものだった*3。

女性差別を許すことも「多様性」や「自由」であると考える学生が少なくなかったのである。大学の活動がいかに男性の価値観を中心に回っているかがわかる一例である。

伝統だと開き直る

『東京大学新聞』は2019年にもこの問題を特集したが、その際にも女性を排除し続けるサークルが存続していることが判明した*4。

その調査によれば、女性メンバーがいるのにもかかわらず、東大の女性は認めないと明確に回答したサークルが3つあった。加えて差別はしていないとしながらも実質的には東大の女性を選抜段階で排除しているサークルもあり、取材にあたった学生記者は「東大女子の参加を認めないサークルは数個程度しか存在しないということだが、2年間東大で過ごしてきた身としては、実際はそれ以上~数十程度存在するというのが偽らざる実感」と述べている。

同紙上では東大女性の参加を認めないサークルの声が紹介されていた。

サークルAは「私どものサークルでは新歓のビラにも『女子は○○大のみ』からなる(編集注・原文では○○大は大学名)と記載しており、東大女子は参加できないことを明示しています。ただ、なぜ『○○のみ』なのかは私にも不明な点です。

東大女子を入れたいと思ったことも実はありました。ただ入れない理由を聞かれたとしても、伝統としか答えられません。インカレとはそういうものでしょう。(中略)それ故、うちのサークルでは東大女子はおりません。お断りです」と回答。サークルBも同様に、「例年そうなっているため」とサークルの伝統や慣習を理由に挙げた。一方、サークルCは「他大の女子が大勢いる中、東大女子が少数いてもなじめなさそう」と、メンバー間で不調和が生まれるリスクを理由に挙げた。

このように、ここでも女性に対する差別が男性の視点から正当化されている。「伝統」や「常にそう」「なぜなのかは私にも不明」、女性が「なじめなさそう」と開き直ることでこれまでの価値観の再考を拒否しているのである。

同紙では、東大女性を排除するサークルに反発する女性の学生の声も紹介されていた。フットサルサークルのマネージャーになりたいと思っていた法学部3年の女性は入学当初、サークル勧誘イベントでそのサークルを訪れると「東大女子お断りと部屋から出された」という。

「上京して間もなく、地方の高校のためあまり情報もない中そんなことになり、泣きそうになった。何で東大女子なのに東大のサークルに入れないのか、と非常に理不尽に思ったし、東大女子が入れないならせめてサーオリ(引用者註:サークル勧誘イベント)に出店しないでほしかった。それを黙認している東京大学も許せなかった」と述べている。

この学生が「東京大学も許せない」と指摘しているように、東大女性を排除する学生活動は、男性学生だけが批判されるべきものではない。藤田はその調査の過程で「『東大女子お断り』を明確に差別として認識し、嫌悪感を示したのは東大女子のみであった」と指摘しているが、「学生自治」や伝統の名目で差別を許容し、放置する空気は長期にわたり大学全体を覆ってきたのである*5。


引用 
*1 湯川次義『近代日本の女性と大学教育教育機会開放をめぐる歴史』不二出版、2003年、492〜493頁
*2 夏目漱石『34郎』新潮文庫、1948年(2011年改版)、32〜33頁
*3 東京大学キャンパス計画室編『東京大学本郷キャンパス140年の歴史をたどる』東京大学出版会、2018年、16頁
*4 『東京大学史史料室ニュース』第47号、2011年11月30日、4頁
*5 東京大学キャンパス計画室、前掲、104頁


写真/shutterstock


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2023年現在、東大生の男女比は8:2である。日本のジェンダー・ギャップ指数が世界最下位レベルであることはよく知られているが、将来的な社会のリーダーを輩出する高等教育機関がこのように旧弊的なままでは、真に多様性ある未来など訪れないだろう。

現状を打開するには何が必要なのか。現役の副学長でもある著者が、「女性の“いない”東大」を改革するべく声を上げる!

東大の知られざるジェンダー史をつまびらかにし、アメリカでの取り組み例も独自取材。自身の経験や反省もふまえて、日本の大学、そして日本社会のあり方そのものを問いなおす覚悟の書。

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