入学式取材で見えた「東大新入生」のリアルな変化 「将来像これから」「政治の話は引いてしまう」
東洋経済オンライン / 2024年4月20日 7時30分
予想よりも開花が遅れた桜が満開を通り越し、少し若葉をまとい始めた4月12日の朝。東京・九段下の坂道は、真新しいスーツとネクタイに身を包んだ大勢の若者でごった返していた。
【図表で見る】東大生が入学を決めた動機には、数年で顕著な変化が
拡声器で交通誘導を呼びかける大きな声がとどろく中、若者たちは、仲間や家族と笑顔で語らい合い、記念写真を撮りながら、皇居外苑にある田安門をくぐっていく。たどり着いたのは、北の丸公園にある日本武道館だ。
1万人以上の来場者を収容できる巨大ホールでこの日開かれたのは、日本の最高学府の頂点である東京大学の入学式だった。
藤井総長が課した「最初の宿題」
午前10時半過ぎに始まった入学式では、藤井輝夫総長らが式辞を述べたほか、JAXAの宇宙飛行士候補者で医学部OBの米田あゆさんらが後輩たちに祝辞を贈った。新入生約2930人と、その家族など約5310人が出席した入学式は、正午頃に終了した。
例年注目を集める式辞で、藤井総長は何を語ったのか。大きなテーマとなったのが、公正な社会の実現に向けた「差別」の解消だ。藤井総長は、物事を多次元的にとらえる姿勢の大切さを取り上げ、社会の複雑性や、固定観念や先入観に基づく考えに陥る人間の「認知バイアス」を認識する重要性を指摘した。
そのうえで、特定の属性を持つ人が等しい機会を得られずに排除され、通常よりも努力せざるをえない「構造的差別」の問題に言及。たとえ社会的・文化的には多数派でも、障害の有無、貧しさ、エスニシティ、性的指向・性自認といった面では少数派でありうることを指摘し、こう述べた。
「皆さんが構造的差別のいまどこに位置しているのかを知ることは、それぞれにとって、『最初の宿題』かもしれない。構造を知る者は、同時に、その構造を変える力を持つ。ぜひ、現在の社会構造をみんなで望ましい方向に変えていくにあたって、自らが持ちうる力を探っていただきたい」
藤井総長が、新入生に課した「最初の宿題」。これは、多くの東大生が育ってきた環境を念頭の1つに置いた発言かもしれない。近年、家庭環境で人生が左右される状況を意味する「親ガチャ」という言葉が流行語になり、東大合格と、世帯収入や出身地域との相関性を指摘する議論もよく見かけるようになった。
なぜ東大に入れたのか、自らが置かれてきた環境と役割を見つめ直し、持てる力を社会に役立ててほしい――。藤井総長の洗練された言葉は、そうしたメッセージを感じさせるものだった。
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