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記憶力の衰えを感じる高齢者こそデジタルと仲良くせよ…80代でゲームアプリを開発した若宮正子さんに学ぶこと

集英社オンライン / 2024年4月17日 8時0分

定年退職後のシニアの生活。もう新しいことは学べないと思う人もいるかもしれないが、プログラムの知識が全くないまま、80代でiPhoneのアプリを作った高齢者もいる。「デジタル技術で衰えを補うことは可能」と語る経済学の大家、野口悠紀雄氏の新著、『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

使い手の能力が低いのでなく、相手が不完全

デジタル機器の使い方がよく分からないのは、使い手の能力が低いからではありません。さまざまな手続きでよく分からないことが多いのは事実ですが、これは、説明文が不完全だからです。適切な文章になっていない場合が多く、これでは、分からないのも当然です。



そもそもデジタル機器が使いにくいのは、機器が複雑だからではなく、機器がまだ不完全だからです。

機器が進歩するに従って、誰でも使えるようになります。PCが初めて登場したとき、それは、きわめて使いにくい代物でした。しばらくしてMS‐DOSが登場したときも、使い方に苦労しました。ところが、いまでは、こうしたものの存在を意識することすらなしに、PCを使うことができます。

そのうちにAIが発達して、親切な人に話すのと同じように、対話を繰り返しながら使えるようになるでしょう。

「取り掛かりの一歩」を人に任せてもよい

ただし、IT機器を使うには、最初にセッティングを行う必要があります。自分で行うのがよいのですが、やや面倒なので、誰かに頼んでもよいでしょう。家族や知り合いの中には、必ずこうしたことにたけている人がいますから、それらの人に頼んで使えるように設定してもらえばよいでしょう。

Zoomのセッティングはそんなに複雑ではありませんが、高齢者が自分でやる必要はありません。誰かにやってもらって、使えばいい。Zoomに限りません。スマートフォンも、面倒なのは最初のセッティングです。使うのはそんなに難しいことではない。だから、セッティングだけ誰かにやってもらえばいい。

取り掛かりの一歩を人に任せてもいいのです。これは、重要なことです。というのは、なぜ取り掛かりが面倒かというと、まだ技術が十分に進歩していないからです。つまり、相手が悪い。こっちが理解ができないからではなくて、相手が理解してくれないのです。だから、そこはパスしたほうがいい。

私自身の経験でも、例えばハードディスクが登場した頃、それは非常に使いにくいものでした。ただ箱が来ただけで、それをどう初期化するかは、非常に面倒でした。

私は、台湾から来ていた大学院生にセッティングを任せたのです。つまり、最初の手続きをパスしたわけです。それは正解でした。いまハードディスクの初期化の手続きを知っていても、何の役にも立ちません。

そもそも、ハードディスクがどこにあるかさえ、知らない人が多いでしょう。IT機器はすべてそうです。昔は、非常に使いにくかった。しかし、今は、簡単に使える。これは、相手がようやく人間のレベルにまで成長してきたからです。

だから、スマートフォンが使いにくいのも、相手がまだ頭が悪いからです。そのうちに相手の頭がよくなるでしょう。

記憶力の衰えを感じたときこそデジタルの出番

シニアになると、「記憶力が衰えるから勉強は無理だ」と考える人がいます。しかし、これも大きな間違いです。なぜなら、デジタル技術で補うことができるからです。

関連語を音声入力して検索すれば、すぐに分かります。思い出すために、わざわざ辞書を引いたり書籍を開く必要はありません。

忘れたくない内容なら、Googleが無料で提供している「Googleドキュメント」に音声入力でメモを書き、クラウドにあげておくのも効果的です。

メモの作り方や整理法は多少の工夫が要りますが、GmAIlで自分宛てにメモを書いて、ひとまず下書きフォルダで保存するところから始めてもいいでしょう。こうやってデジタル技術を味方につければ、記憶力の衰えなど、たいした問題ではなくなるのです。

ただし、思いついたことをすぐ忘れてしまうのでは困ります。アイディアというのは忘れやすいものなのです。夜、寝る時に浮かんだアイディアは、翌朝になったら必ず忘れています。寝ついたときにいいアイディアが浮かんだと思っても、そのままにしたら、必ず忘れます。

ここでどうするか? スマートフォンの出番です。これを枕元に置いておいて、これに入力する。書くのは面倒だから音声入力する。これは、非常に重要です。

これは、今晩からでもできることです。誰にでもできることです。別に難しいことではありません。

ただ、実際には、できない場合もあります。どうしても眠たくて、スマートフォンがそばにありながら、手が出せないで逃したアイディアは、山ほどあります。

先日も、非常に重要なアイディアを思いつき、手を伸ばそうと思ってできなくて、そして見事に忘れました。「これほど重要なアイディアだから、絶対忘れない」と思ったのですが、翌朝になって忘れていました。そもそも、何について考えていたかも忘れました。

せめて何かきっかけを、一言でもいいから書いておけば。アイディアそのものでなくても、「この問題についてだ」と書いておけば、多分、引っ張り出せたのに……。重要なアイディアを思いついたことを、覚えているのが悔しい限りです。

ゲームアプリを80代で開発

高齢者がプログラムの勉強をすることもできます。そんな難しいことはできないと言う人が多いかもしれませんが、始めると、病みつきになってしまうかもしれません。

プログラムの知識が全くないまま、iPhoneのアプリを作った高齢者もいます。

若宮正子さんは、1935年生まれ。高校卒業後、大手都市銀行に就職。定年時の役職は子会社の副部長。60歳からパソコンを使い始め、スマートフォン向けのひな人形位置当てゲームアプリ「hinadan」を80代で開発しました(日本経済新聞、2018年11月22日)。

2017年6月、米アップルが開催する世界開発者会議「WWDC2017」で世界最高齢の女性開発者として特別招待され、世界を驚かせました。

ネットを介して多くの人と交流。パソコンやネットを活用したシニアの生きがい作りや、子供向け教育を支援する複数の団体に参画。

「プログラミングは勉強というより、興味があることに挑戦しただけ」、「大人の勉強は道楽。やりたいことをやればいい。ものにならなくても、プラスになりますよ」と言っています。

楽しみながら学んだことは、ものにならなくてもマイナスにはなりません。時間が惜しいので、テレビで見るのはニュースと天気予報くらいだそうです。

 「デジタルスキルで、高齢者はもっと人生を楽しめる」

60歳のとき、ネット上で活動していたシニアのグループに参加したくてパソコンを購入。キーボードの使い方も分からなかったが、毎週末、パソコンショップに通って、店員に教えてもらいながら使い方を習得。お目当てのグループに参加してからは、ネット上の知人からホームページの作り方や、旅行記の公開方法などを学んだそうです。

同世代の知人に頼まれてパソコン教室を自宅で開催したり、マイクロソフト主催の東北復興支援イベントに参加。このときに知り合った東北のIT企業社長の勧めで、シニアが楽しめるiPhoneアプリの開発を決意。教科書を買い込み、教科書の著者にメールで教えを請いつつ、背中を押したIT企業社長からもネット経由で指導を受けながら、半年でアプリを完成しました。

このアプリが評価され、前述の「WWDC2017」に出席することになったのです。2017年6月にアップルの招待を受け、同社が米サンノゼで開催している開発者イベント「WWDC」に赴きました。

その基調講演で、若宮さんは「最年長のゲームアプリ開発者」として紹介されました。その前日には、ティム・クックCEOと面会したことが話題になりました。

そして、2018年2月2日には、国連総会の基調講演に立つことになりました。デジタルスキルを備えれば、高齢者が「もっと人生を楽しめる」と呼びかけ、会場は拍手で沸いたそうです(日本経済新聞、2018年2月3日)


文/野口悠紀雄 写真/shutterstock

83歳、いま何より勉強が楽しい

野口悠紀雄
83歳、いま何より勉強が楽しい
2024/4/5
1,650円(税込)
304ページ
ISBN: 978-4763141057
高齢者にとっての勉強とは、 これまで丈夫に生きてきたことへのご褒美として与えられた、 お金もかからない、最高の遊びなのです。

「中高年こそ、勉強を始めよう」 豊かな人生を送るために、いつ始めても遅くない。 勉強こそ、「ポジティブ」になれる最短ツール。

経済学者として日本経済を観測し続け、 大ベストセラー『「超」勉強法』をはじめ、 独自の勉強法を編み出してきた経済学の大家が提案する 豊かな暮らしのための「学び方」。

「デジタル機器」「加齢」「残り時間」をも味方につける 「人生100年時代の勉強法」を伝授。 今日から始められるさまざまな工夫が満載です。
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(もくじより)
■シニアになっても、知的能力は低下しない
■「興味がわかない」と感じるときほど「学び始める」チャンス
■残り時間が少ないから、「5割、逆向き、検索」勉強法
■「取り掛かりの一歩」を人に任せてもいい
■記憶力の衰えを感じたときこそデジタルの出番
■ChatGPTに「ほめてもらう」、ChatGPTを「困らせてみる」
■気にするなと言われても難しい、「心配事」との付き合い方
■配偶者や友人が亡くなる喪失感とどう付き合うか
■脳内「記憶操作」で人生を楽しく振り返る

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