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ガーシーが「議席獲得」。テレビ1局を超えるYouTubeの影響力

集英社オンライン / 2022年8月2日 11時1分

先日の参議院選挙で、ひとりのYouTuberがついに最後まで公の場に姿を見せないまま、当選した。その人物が選挙戦で駆使したのはYouTubeのみ。もはやYouTubeはたんなる娯楽の域を超えて、私たちの社会構造にインパクトを与えるほどの「メディア」に成長している。その「強さ」をさまざまなデータで検証した。

YouTubeの選挙への「圧倒的影響力」

7月10日に行われた第26回参議院議員通常選挙は、YouTubeの影響が顕著だった。もっともわかりやすい例は、NHK党の「ガーシー」こと東谷義和氏が28万の個人票を獲得、海外に居住したまま当選を果たしたことである。

その是非についてはさまざまな意見がある。筆者は「国内に戻って国会に出席できないなら、議員になるべきではない」という立場だ。だが、彼がYouTubeを背景に票を集めるだけの影響力があったことに疑問はない。



現在、東谷氏のYouTubeチャンネルは停止状態にあり、直接ののべ視聴者数を把握するのは難しいが、停止前までには120万人以上のチャンネル登録者がいた。彼の投稿動画の一部を使った「切り抜き」動画などを投稿する人々もいるし、連動している「NHK党」関係者の動画配信もあるので、実際にはそれよりもはるかに多い直接的な影響を動画視聴者に与えていると考えるべきだろう。

20代の半数以上が「1日1時間以上視聴」

では、YouTubeはどのくらい影響力があるのか?

調査会社・MMD研究所が2021年9月に公開したレポート(調査母数5706人のインターネット調査)によれば、全年代平均の場合、1日の間に一度もYouTubeを「見ていない」人は17.9%に過ぎない。若い層ほど視聴は多く、10代では76%以上が「1日1時間以上見る」と答えている。有権者である20代も、約56%が「1日1時間以上見る」計算になる。

MMD研究所が公開した「YouTubeの1日あたりの視聴時間」調査。年代ごとに視聴時間は異なるが、全世代で見られている

グラフからわかるように、年齢を重ねるごとに1日の視聴時間は減っていくものの、メディアとしての価値が圧倒的に高いことは間違いない。

影響を受けているのは「若者」だけではない

もう一つ別の調査も示そう。以下の画像は、NHK放送文化研究所が公開している「メディア利用の生活時間調査」というウェブサイトを使ったものだ。このサイトでは、21年の調査をもとに、人々がどのようなメディアと機器を活用しているかを分析できる。実際にウェブ上で、集計対象を変えながら比較できるので、ご自身でも試してみることをお勧めする。

ここでは、20代と50代の男女を例に、同じ「日曜日の21時頃」の行動をピックアップしてみた。グラフの示す「メディアへの接触の形」は、年代で大きく違っている。

日曜日の20代男性(左)と50代男性のメディア接触を比較した。20代男性は「スマホ・携帯」がもっとも多く、その中でも「動画」(棒グラフの茶色の部分)が50代男性より多い

同じく、日曜日の20代女性(左)と50代女性のメディア接触を比較したもの。20代女性も「テレビ画面」より「スマホ・携帯」の接触時間が長く、その中でも「動画」(茶色の部分)を見ている割合が50代女性より圧倒的に大きい

テレビ離れ、といわれるが、さすがにこの時間帯は20代も50代も、テレビの利用率は高い。一方で、20代はスマホ・携帯電話の利用率も高くなっている。これは、テレビとスマホが同時に使われている時間も多いことを示唆している。

注目は茶色の「動画」視聴の割合だ。

20代女性によるスマホでの視聴が目立つが、注目すべきは、20代であっても50代であっても、それなりの数の人々が「テレビのゴールデンタイムにネット動画を視聴している」という点である。ネット動画は若者に対して、より影響力が強いのは事実だが、50代でもある種、基本的な視聴行動として定着しているのがわかる。

ここでいう動画視聴はYouTubeだけではなく、Netflixなども含まれる。だが、前出・MMD研究所の同じレポートに含まれるデータによれば、有料映像配信の利用経験者は全体の6割で、未経験者がまだかなりいる。視聴している動画として、YouTubeが占める割合は非常に高い、と考えて差し支えないだろう。

テレビの中でも放送局1局を超える影響力

もう一つ、ここで着目してほしいのは「テレビでネット動画を見ている」という人々の割合が、無視できない数になっていることだ。ピックアップしたグラフでも、ゲームや録画視聴に並ぶ比率になっている。

別の調査も示そう。

21年11月、マクロミルが行った調査によると、テレビのネット接続率は41.8%で、YouTube利用者の3人に1人がテレビから視聴した、ということになる。

また、筆者が国内で大きなシェアを持つテレビメーカー・TVS REGZAに21年に取材した時、彼らの内部データでは以下のようになっている、と話していた。

「各家庭のテレビ利用履歴を集計すると、1日の動画配信視聴は平均1.5時間に到達し、NHK1局の視聴時間に近づいている。その中でも圧倒的に使われているのはYouTubeであり、利用割合がずっと少なくなった形でAmazon Prime Video、次にNetflixなどがきます」(TVS REGZA関係者談)

すなわち、YouTubeの影響力は「テレビの中」だけでもテレビ局1局分に近くなっており、さらにスマホなどで、テレビの前にいない時間も接触している動画メディアになっている、ということだ。

自分が興味を持った映像を選んで視聴する、というYouTubeのメディア特性上、視聴時間の大半が「自分が気になったもの」で占められる可能性は高い。そうした部分で「人気YouTuber」として刺激的な主張を繰り返すことは、テレビに出続けること以上の影響力を持つ、と推察できるわけだ。

海外では「放送」自体もサービスに取り込み

そんなYouTubeも、国によって使い方は違うし、使えるサービスも違うのはご存じだろうか。

アメリカでは以前より「YouTube TV」というサービスが展開されている。TV、といってもテレビでYouTubeを見る、という話ではなく、逆の話だ。放送波やケーブルTV網で配信されているテレビ番組を、インターネットを経由してPCやスマホから、好きな時に好きな場所で見られるようにできるものだ。利用料金は毎月64ドルと、安価ではなく、日本からは利用できない。

以下の画像は18年にアメリカで筆者が試した時のものだ。今は操作画面が変わっているが、機能は変わっていない。テレビの番組表に見えるが、実はこれ、このまま「録画されている番組リスト」でもある。いや、「録画されているかのように、好きな時に見られる番組」と言った方が正確だろう。

18年の時点での、アメリカでの「YouTube TV」利用画面。YouTubeの画面デザインで「テレビ番組」が、PC/スマホ/テレビで視聴可能になる

「YouTube TV」のホーム画面。ユーザーの視聴傾向を分析してお勧め番組を提案してくる

すなわち、利用料金を支払う必要はあるにしろ、YouTubeに投稿された映像と、テレビ局から配信される映像とが完全にひとつの枠の中で、同一に扱われるようになっているのである。より多機能で、ネット動画視聴に慣れた人には馴染みやすい。

前述のように有料であるため、まだ大多数の人が使うサービスではない。だが、もはや「放送と個人コンテンツの垣根」は薄くなっている。アメリカには「ドナルド・トランプ」という実例があったが、日本も例外ではないことが、今回の参院選で示された。政治でも他の領域でも、今後も同じような形で、過激に注目を集めるためにYouTubeが利用され続けるだろう。

取材・文/西田宗千佳

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