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税逃れ、メディア戦略、ビジネス展開…旧統一教会がアメリカで行ってきた巧妙な政治工作

集英社オンライン / 2022年10月26日 18時1分

今から約40年前、アメリカでも政治と旧統一教会の関係が問題となり、これに強い危機意識を持った「フレイザー委員会」によって綿密な調査が行われた。委員会はこの宗教カルトの本質をどう結論づけ、米議会はその後、教会とどう向き合ってきたのか?

タコ足のような触手を持つ宗教・金融的グローバル帝国

韓国の旧統一教会本部

前編では、米議会のフレイザー委員会(1977~78年)をもとに、旧統一教会が韓国朴正熙政権下でKCIAの庇護を受け、米国政治工作を展開してきたことを述べた。

ここからは委員会の「報告書」の結論と提言部分を中心に、報告書が教会の本質をどう見抜いたか、またその後の米国政治は旧統一教会とどういう付き合い方をしたのかを見ていきたい。



まず報告書はその「要約と提言」で、旧統一教会の「組織的特性」を端的にこう指摘している。

「文鮮明率いる統一教会や関連世俗団体は、基本的に単一の国際組織である。この組織は各部所の相互流動性、すなわち、人事・資産アセットを国際間で動かしたり、営利組織と非営利組織の間で動かすことで成り立っている」(387)ページ

この分析ほど、旧統一教会の本質を射抜くものはない。今、自民党の多くの国会議員が統一教会の名称変更で、同一団体だという認識がなかったと言い訳している。政治家としてその弁明が通用するとはとても思えないが、多くの日本人にとって上記のような旧統一教会組織の特徴が、その実像をつかみきれずにいる理由のひとつになっていることはまちがいないだろう。

ワシントン・ポスト紙が「無数のタコ足のような触手をもつ宗教的・金融的グローバル帝国」と表現したように、旧統一教会は世界平和統一家庭連合、天宙平和連合といった関連団体、友好団体と称するダミー団体を無数に持っている。

この特性を包括的に把握するため、フレイザー委員会報告では、統一教会を含むすべての関連団体を包摂する概念として文鮮明機関(Moon Organization)という言葉を使用している。

その上で、フレイザー報告書はこの機関の活動ぶりをこう記す。

「文鮮明機関は営利事業や世俗組織を設立したり、(法人の)株主支配権を得る試みも行ってきた。また米国では政治活動も行ってきた。これらの活動の中には韓国政府に資するものや米国外交政策に影響を与えるものもあった。

(中略)ディプロマット・ナショナル銀行の株主支配権を得るため、信者の名義を使い買収資金源を隠匿した。(中略)協会などの非課税団体を使って政治的・経済的活動を維持している。(中略)その目的や活動の多くが合法的とはいえ、同機関は組織的に、連邦政府の税法、移民法、銀行法、外為法、外国政府代理人登録法や、慈善事業関連の州法等に違反してきた」(387~88ページ)

「課税対象の文鮮明機関が、免税団体への資金移動により、免税特権を得ていると信じるに足る理由がある。課税対象組織と免税組織を使い分けることで、文鮮明機関は連鎖反応的に財力を増やし、競合する組織に比べて大きな強みを持っている」(391ページ)

タコ足のように無数の関連団体(彼らの用語でいう「摂理機関」)を使い分け、資金、マンパワー、情報を自由に動かして全体としてのMoon Organizationを維持・拡大させる。こうした旧統一教会の実態が、70年代のアメリカですでに分析されていたことはもっと注目されるべきだろう。

官庁横断的タスクフォースによる調査を進言

ただ、フレイザー委員会は教会の組織的特性については的確に見抜いたものの、教団資金の流れは充分に解明できずにいた。

そこで、報告書は今後の課題として、文鮮明機関全体の財務申告をIRS(合衆国内国歳入庁:日本の国税庁のあたる)が強制捜査をすること、議会の歳入委員会や財務委員会が免税措置乱用禁止の立法が必要かどうかを検討すべきと提唱した。

文鮮明機関が引き起こすさまざまな社会問題は、60年代半ばからアメリカの各政府機関で憂慮されてきたが、連邦行政府、議会、州政府、地方当局などの対応がバラバラで、中途半端だったことは否めない。

国務省、移民帰化局(INS)や司法省などが別々に文鮮明機関の調査をしたが連携がなく、結果として徒労に終わったと報告書は述べているほどだ。そうした反省の上に立ち、報告書は今後の課題として証券取引委員会(SEC)や歳入庁(IRS)なども入れて、官庁横断的タスクフォースを作ってさらに調査を行うべきことを進言したのだ。

日本ではようやく岸田首相が宗教法人法にある「質問権」行使による教団調査を文科省に指示したが、苦情や被害などの実態把握のために消費庁や法務省も動くなど、政府部内の役割分担はどうも釈然としない。

これではまるで60年前のアメリカ政治のレベルと同等と言われても仕方ない。官庁横断的なタスクフォースが必要というフレイザー委員会の指摘は今後の日本にとって参考になるはずだ。

旧統一教会の巻き返し

多くの有益な提言を出したフレイザー委員会だが、78年に終了するとアメリカ政府内でのタスクフォースを作る動きはピタッと止まった。

1980年にロナルド・レーガンがホワイトハウス入りすると、米政界は「レーガン革命」とも言うべき保守の時代に突入する。この変化は旧統一教会にとっては保守政界に食い込む絶好機となった。

フレイザー委員会が警鐘を鳴らした「金の流れを追うべき」という“遺言”は、84年に文鮮明を脱税容疑で摘発し、有罪・収監という成果を生むが、その後の旧統一教会関連団体の世論工作はむしろ一段とヒートアップし、巧妙さを増していった。

旧統一教会は福音派の有名テレビ伝道師やハーバード大の宗教学者、大物共和上院議員らなどを動員し、文鮮明の大統領特別恩赦アピールを大々的に展開していったのである。

その結果、文鮮明は恩赦こそ獲得できなかったものの、1年半の刑期を5カ月減じて出所することができた。

これ以降、アメリカにおいては政治を動かす重要なファクターが世論であることを痛感した文鮮明機関は、保守系新聞「ワシントン・タイムズ」創刊など、メディア戦略を一段と強化・巧妙化させた。

1982年に創刊された『ワシントン・タイムズ』は、韓国、日本、南米の新聞社やUPI通信社を保有する、旧統一教会関連の国際メディア複合企業だ

財務面でも日本人コネクションを利用して独自の漁業・卸流通網を開拓し、80年代の米国寿司ブームを支えるレストラン事業や不動産事業を展開し、メディア業での赤字を埋め合わせることに成功した。

謎の放火事件と転落死

報告書が日の目を見る前後、旧統一教会の抵抗によってフレイザー委員会はさまざまな障害や困難に直面した。

教会古参幹部で文鮮明の特別補佐兼通訳をつとめた朴普煕は召喚され、証言席でフレイザー委員長を共産主義ソビエトの代理人と面罵し、同委員長とスタッフに対して3千万ドルの名誉毀損訴訟を起こした(後に取り下げ)。

また、78年の中間選挙時には信者らによるフレイザー議員の選挙活動の妨害工作もあった。その影響もあってか、フレイザー議員は落選し、さらに自宅が犯人不明の謎の放火にあっている。

さらに84年には、委員会の主席調査スタッフだったR.ボッチャー氏(当時44歳)がニューヨークのアパート屋上から謎の転落死を遂げるということもあった。

日本での聞き取り調査も順調ではなかった。報告書によれば、フレイザー委員会には複数の国会議員をはじめ、多くの日本人から「調査は日米関係も視野に入れて広範に調査すべき」との要望が寄せられていたという。

そこで委員会としては権限を越えることになるとしながらも、スタッフが韓国での調査を終えた後に日本に立ち寄り、証言したいとする5人~10人ほどの日本人、韓国人に聞き取りをする準備を進めた。

しかし、この調査は実現しなかった。日本政府当局がフレイザー委員会に非協力的で、委員会スタッフのビザ発給条件として「面接対象は米国人にかぎる」という制約を課したためだった。

委員会に協力しなかった日本政府

その非協力ぶりは「日本当局は当初、アメリカ大使館内での米国人ビジネスマンに対する聞き取りすら、ビザ条件外として却下したほどだった」と、報告書は特記している。

日米両国の親密さを考えると、この日本政府の対応は不可解だ。フレイザー委員会の活動を制約したいという政治的思惑が日本政府側にあったのではないか。

もっとも可能性が高いのは1972年8月、朴正熙(パク・チョンヒ)の政敵で韓国民主化を訴えていた金大中(キム・デジュン)が東京で拉致・誘拐され、5日後にソウルの自宅前で発見された事件との関連だ。

当時から、KCIAや在日系組織暴力団・右翼の大物などの関与が取り沙汰されてきたが、日本の保守政権が拉致を黙認していたのではないかという説も根強い。

事件の事後処理が日韓双方の微妙な曖昧決着で終わったこと、KCIAと旧統一教会が密接な関係を構築していたことなどを考えると、日本政府当局がフレイザー委員会による事件の「掘り起こし」を牽制した可能性は充分考えられる。

フレイザー委員会の仕事はけっして完全ではなかったし、その提言も多くは実現することはなかった。文鮮明機関全体としての金の流れは解明できなかったし、税務当局を含む省庁横断的タスクフォースも実現しなかった。それほど統一教会の実態解明は一筋縄ではいかないということだろう。

ひるがえって現在、岸田政権は「宗教法人取り消しに繋がる質問権行使」という初手の段階で右往左往している。宗教法人以外の関連団体(フレイザー委員会の言うMoon Organization)総体の人・モノ・金の調査にはまだまだ及び腰だというのが実情だ。

1970年代、アメリカ民主党は上下両院・大統領府を握り「トリプル・ブルー」の政権与党だった。その政治基盤を生かし、与党のフレイザー委員長は文字通り、身を挺して旧統一教会に対峙し、できるかぎりの調査を行った。今、与党自民党内に「日本のフレイザー委員長」がいないことがこの国の悲劇なのだろう。

文・小西克哉 写真/共同通信社 AFLO

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