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マグネターには大気が存在しない?X線偏光の初観測から見えてきたもの

sorae.jp / 2022年12月4日 21時0分

【▲ 図: 中性子星とその周辺に存在する磁場の想像図。マグネターと呼ばれるタイプの中性子星は、極めて強力な磁場を持っています。 (Image Credit: ESO/L. Calçada)】

【▲ 図: 中性子星とその周辺に存在する磁場の想像図。マグネターと呼ばれるタイプの中性子星は、極めて強力な磁場を持っています。 (Image Credit: ESO/L. Calçada)】

太陽の8倍以上の質量を持つ恒星は、その寿命の最期に超新星爆発を起こし、中心核は縮退して「中性子星」と呼ばれる直径十数kmの高密度なコンパクト天体を生成します。その名の通り、中性子星は平均的には中性子 (※1) の塊ですが、表面から内部に至る正確な組成は異なると考えられています。特に、最表面には恒星だった頃の名残である、普通の原子で構成された大気が存在すると推定されています。

※1…中性子は、陽子と共に原子核を構成する粒子の1つです。中性子星は平均的にはほぼ全てが高密度の中性子の塊であることから、中性子星は直径十数kmの “原子核” と形容されることもあります。

中性子星に大気が存在すると仮定した場合、中性子星から放出されるX線が大気の影響を受けて、偏光 (※2) に影響が現れることが理論的に示されています。しかしながら、そのようなX線の偏光がこれまでに観測されたことはありませんでした。

※2…可視光線やX線などの電磁波を「波」として捉えた場合、波の振動方向がある一定の面に揃っていることを「偏光」と呼びます。

パドヴァ大学のRoberto Taverna氏などの研究チームは、「マグネター」のひとつ「4U 0142+61」について研究を行いました。マグネターは際立って磁場の強い中性子星の一種であり、時折爆発的なエネルギーを放出することが知られています。しかしながら、マグネターがなぜそのような強い磁場を持ち、どのようにしてエネルギーを放出するのかについては不明な点が多く、現在でも研究が続いています。4U 0142+61は地球からの距離が約1万3000光年と比較的近いマグネターであることから、長年の研究対象となっています。

Taverna氏らは、アメリカ航空宇宙局 (NASA) とイタリア宇宙機関 (ASI) によって2021年に打ち上げられたX線観測衛星「IXPE」による4U 0142+61の観測データを分析し、X線のエネルギーごとに偏光が存在するのかどうかを調べました。その結果、中性子星の放射としては初めて、X線の偏光を測定することに成功しました。

観測されたX線の偏光度はエネルギーごとに異なっており、たとえば直線偏光の値は2~8keV (※3) では13.5±0.8%、2~4keVでは15.0±1.0%、5.5~8keVでは35.2±7.1%を示し、4~5keVでは検出感度を下回りました。一方、偏光角は4~5keVで90度という鋭い変化をしていることが示されました。

※3…eVは「電子ボルト」という単位です。1eV=1.602×10^-19Jであり、X線=光子など、素粒子レベルの世界でエネルギーを表す単位として使われます。

これらの値をもとに、4U 0142+61から放射されているX線のほとんどが赤道付近の固体表面から放射されていて、その一部が周辺の強力な磁場の影響を受けた、と推定されています。

予想外なことに、今回得られた4U 0142+61のX線放射のデータからは、明確な大気の存在が示されませんでした。これは重要なポイントです。

1つの可能性として、マグネターの表面に存在する大気が、超強力な磁場の下では気体の状態を保てずに凝集したという推測が成り立ちます。このようなことが起こるのは (大雑把に言えば) 通常の原子で構成されている物質の性質が、原子の外側にある電子の状態で決まるためです。電気を帯びた粒子である電子は磁場に反応するため、マグネターの超強力な磁場の下では気体を固体に変えてしまうほどの電子の状態変化が起こった可能性があります。

今回の観測結果はまだ1つの例にすぎず、マグネターや中性子星に大気が存在するかどうかの議論に決着をつけることはできません。強力な磁場を持つマグネターと、マグネターより弱くても普通の天体に比べれば桁違いに強力な磁場を持つ中性子星とでは、大気の有無が異なる可能性もあります。しかしながら、中性子星の大気の有無を実際の観測データから判断することが可能であることを示したという点で、今回の研究は非常に大きな結果をもたらしました。マグネターとその他の中性子星では磁場の強さが異なることから、大気の存在は磁場の強さに左右されるのかもしれません。今後の研究結果が期待されます。

 

関連:観測史上最も若い「マグネター」のX線をNASAの観測衛星が捉えた

Source

Roberto Taverna, et.al. “Polarized x-rays from a magnetar”. (Science) Mark Greaves. “Magnetised dead star likely has solid surface”. (University College London)

文/彩恵りり

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