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「エウロパ」の海に供給される酸素は少ない? 「ジュノー」のデータに基づく研究

sorae.jp / 2024年3月19日 21時45分

木星の衛星「エウロパ」は、内部に広大な海が広がっていると考えられている天体の1つです。海には表面の氷が分解して生じた酸素が供給されていると考えられているため、酸素呼吸を行う生命がいれば貴重な供給源となっている可能性があります。しかし、エウロパの酸素発生量は推定するためのデータが乏しく、推定される最小値と最大値との間で1000倍もの幅がありました。

プリンストン大学のJ. R. Szalay氏などの研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の木星探査機「ジュノー」の観測データに基づき、エウロパ表面での酸素発生量を推定しました。その結果、酸素発生量は毎秒6~18kgであると推定されました。これは比較的少ない発生量となり、酸素呼吸を行う生命にとっては不足であるかもしれません。

【▲図: エウロパの表面では、氷の分解による酸素が発生し、海に供給されていると考えられています。今回の研究は、酸素の推定発生量をより絞り込みました。 (Image Credit: NASA, JPL-Caltech, SWRI & PU) 】【▲図: エウロパの表面では、氷の分解による酸素が発生し、海に供給されていると考えられています。今回の研究は、酸素の推定発生量をより絞り込みました(Credit: NASA, JPL-Caltech, SWRI & PU)】 ■「エウロパ」の海には酸素が供給される?

木星の衛星「エウロパ」は、地球の月よりも小さな衛星ながら長年注目を集めている天体です。表面全体は氷で覆われていますが、その内部には豊富な液体の水で構成された海が存在すると考えられています。その規模は地球の海よりもずっと大きいと考えられています。

海があれば、独自の生命が誕生している可能性があります。もしもエウロパに独自の生命がいるとすると、それは地球の深海底と似た環境に生息している微生物に似ているかもしれません。そのような生命は、海底から湧き上がる高温の熱水と、それに含まれる無機物を代謝して活動します。光が届かない深海という光合成に頼れない環境に適応しているため、光合成の過程で生じる酸素を必要としていません。

しかしこの前提は、酸素を必要とする生命がエウロパに全く存在しないことを意味するものではありません。エウロパの表面には薄い大気しかなく、宇宙空間に存在する荷電粒子(電気を帯びた粒子)が高速で氷に衝突します。すると、氷を構成する水分子が分解され、水素や酸素の分子や原子が放出されます。仮に、酸素分子が宇宙空間に接する氷の最表面ではなく氷の内部で生じた場合、宇宙空間に逃げ出しにくくなるため、やがて内部の海へと取り込まれることとなります。

もしもこのプロセスによる酸素分子の発生量が多ければ、光合成に頼らずとも、酸素呼吸する生命を維持することができるかもしれません。しかし、エウロパの酸素発生量を推定することは困難であり、これまでの研究では毎秒0.3~300kgと、発生量の推定値に1000倍もの差がありました。

■海に供給される酸素の量は少ないと推定

Szalay氏らの研究チームは、NASAの木星探査機「ジュノー」の観測データを元に、エウロパの酸素発生量を推定しました。ジュノーの観測機器には荷電粒子を観測するものがあり、エウロパの接近時にはエウロパから逃げ出す荷電粒子、つまり氷の分解で生じた物質を検出できます。これは以前の木星探査機では取得できていないデータでした。

Szalay氏らは、ジュノーの観測データに電気を帯びた水素原子と酸素原子が含まれていることを確認し、そこから酸素分子の発生量を推定しました。Szalay氏らは水素の放出量から、エウロパ表面での酸素発生量を毎秒6~18kg(12±6kg/s)であると推定しました。これは比較的小さな値です。しかも、これは表面での発生量であり、海へ供給されていく量ではありません。海へ供給される割合は不明なものの、最大でも毎秒18kgという発生量は、かなり小さな供給量であることを間接的に示しています。

そして、エウロパ表面で分子の離脱について、これまでの予想とは異なるプロセスが起こっていることも判明しました。水素分子の離脱は、これまで局所的に表面温度が高い場所で発生している熱的離脱がメインであると考えられていました。しかし、今回測定された水素分子の平均速度は、熱を伴わない離脱がメインであることを示しています。その詳細は今回の研究では不明なままです(※)。エウロパ表面で起こるプロセスをより深く知ることは、酸素分子が海に供給される量についての考察をする上でも欠かせないでしょう。

※…荷電粒子が分子に衝突して直接叩き出すスパッタリングや、氷を流れるわずかな電流によって生じる熱によって分子の運動が活発になるジュール熱などが推定されています。

今回の研究を見る限りでは、エウロパに独自の生命がいたとしても、酸素呼吸を行うものはかなり少ないか、存在しないかもしれません。また、エウロパ以外にも氷の下に海があると予測される天体は複数あるため、海の環境の推定に影響する可能性があります。

 

Source

J. R. Szalay, et al. “Oxygen production from dissociation of Europa’s water-ice surface”. (Nature Astronomy) D. C. Agle, et al. “NASA’s Juno Mission Measures Oxygen Production at Europa”. (NASA Jet Propulsion Laboratory)

文/彩恵りり

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