MITの研究者が「小惑星の地球衝突を回避する方法」を考案
sorae.jp / 2020年2月25日 21時11分
将来、地球に衝突しそうな小惑星が見つかったとき、人類はその軌道をそらせるために衝突体を発射する。まるで映画のような話ですが、今回発表された研究では、小惑星の軌道を変更するための現実的な方法が実際に検討されています。
■「探査機」と「衝突体」のペアで小惑星の軌道をそらせるミッションを想定Sung Wook Paek氏(マサチューセッツ工科大学、研究当時)らの研究チームが検討したのは、地球に接近する軌道を描く地球接近天体(NEO:Near Earth Object)のなかでも特に衝突の危険性が高い「潜在的に危険な小惑星(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)」の軌道を変更する方法です。
この研究におけるポイントは、小惑星が地球の近くにある「キーホール(keyhole、鍵穴)」と呼ばれる特定の領域を通過させないことにあります。小惑星がキーホールを通過すると地球の重力の影響によって軌道が変化し、次回の接近時に地球へ衝突する軌道に乗ってしまうのです。
無人探査機の燃料を節約する手段として、地球などの重力を利用して軌道を変更する「スイングバイ」と呼ばれる方法があります。小惑星のキーホール通過は、言ってみれば「地球に衝突する軌道へ乗るためのスイングバイ」のようなものです。
今回の研究では、小惑星がキーホールを通過するまでの期間に応じて、軌道をそらせるための3通りのミッションが提案されています。基本となるのは「小惑星の物理的な性質を調べるための探査機」と「小惑星の軌道をそらせるための衝突体」の組み合わせで、探査機によって得られた小惑星の情報をもとに、衝突体の仕様を調整します。
もしもキーホール通過までに十分な猶予があれば、本番の衝突体よりも前に「テスト用の衝突体」をぶつけてみて、軌道が変化する様子などを調べることができます。逆に時間的な猶予があまりなければ探査機は送り込めず、いきなり衝突体をぶつけることになります。
研究チームによると、「地球に衝突するかもしれない」として十数年前に話題になった小惑星「アポフィス」の場合、キーホールの通過まで5年以上の猶予があれば「探査機」と「2つの衝突体(テストと本番)」を送り込めます。猶予が2年以上5年以下なら、衝突体は本番の1つだけしか送り込めません。もしもキーホール通過が1年以内に迫ってしまうと「手遅れかもしれない」とPaek氏は語ります。
■地球衝突の可能性はイトカワ、リュウグウ、ベンヌにもPHAは地球のかなり近くまで接近することが知られており、たとえば前述のアポフィスの場合、2029年4月に地球の静止軌道のすぐ外側を通過するとされています。以前はこの接近時にアポフィスがキーホールを通過し、2036年に地球へ衝突する可能性が危惧されていましたが、2036年までに衝突する可能性はないことがその後に判明しています。
日米の小惑星探査機が訪問した小惑星もPHAに分類されていて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ2」がサンプル採取を実施した「リュウグウ」は2076年12月におよそ150万kmのところを、現在NASAの「オシリス・レックス」がサンプル採取の準備を進めている「ベンヌ」は2060年9月におよそ75万kmのところを通過すると予測されています。初代「はやぶさ」が訪問した「イトカワ」も、しばらく先ですが2167年4月におよそ368万kmのところを通過するとみられています。
ただ、小惑星は惑星や太陽の影響を受けて軌道が変わりやすく、長期的な軌道の予測が困難な天体です。今は衝突の危険性がないとされていても、今後の軌道の変化によっては衝突の可能性が高まるおそれもあります。PHAをはじめとした小惑星を監視し、可能であればその軌道を変更することは、「小惑星の衝突」という大規模な災害を防ぐ上で欠かせない技術となっていくはずです。
2007年にNASAが提出した報告書では、小惑星の軌道をそらせる最も効果的な方法として核兵器が挙げられています。映画さながらの手段ですが、地球に放射性降下物がもたらされる可能性もあるため、実際に使用すべきかについては議論が続いています。探査機と衝突体の組み合わせによってキーホールの通過を未然に防ぐことで衝突を回避できるのであれば、ハイリスクな核兵器の使用もまた避けられるかもしれません。
なお、NASAは来年2021年7月に「DART」という探査機の打ち上げ計画を進めています。DARTは小惑星「ディディモス」の衛星に衝突してその軌道を変更させることを目的としており、衝突体による小惑星の軌道変更実現に向けた重要な一歩となる予定です。
関連:はやぶさ2に続け! ヨーロッパ宇宙機関がNASAと共同で展開する小惑星探査ミッションを紹介
Image Credit: Photo collage: Christine Daniloff, MIT
Source: MIT / IAU
文/松村武宏
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