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「推しがいることは幸福で残酷」オタクの執着と暴走を描いた衝撃作/村雲菜月・著『コレクターズ・ハイ』書評

日刊SPA! / 2024年3月26日 8時50分

〈人に迷惑をかけていると自覚し出すと、時間は引き伸ばされたように長く感じられるものだ〉(P84)

 いつまでもこのままの生活で良いのだろうか。趣味に没頭する自分を観察する冷静さと、推しのためなら手段を選ばない興奮が、彼女のなかで綱引きをする。それは仕事においても行われることで、先ほどの商品を売るべく研究を重ねる職場の先輩や、髪を綺麗に仕上げたいと、これまで積み重ねた技術を客に施す美容師も同類ではないか。

〈趣味であれば下手したら捕まるような行為が、仕事という大義名分を得て光ってさえ見える〉(P94)と感じる彼女の視点は鋭い。社会において感情や物事を消費する/されるを繰り返すなかで、もしかしたら推しにハマるファンたちと同じ立場なのではと、こちらも考えてしまうのだ。

 我々は他人の趣味嗜好を自分の物差しで図り、あれこれ意見を言ったり判別をしがちだ。しかし、みんなが等しく共感できなくても、それぞれの違いを目の当たりにして認識し合うのは、とても大事なことではないだろうか。その上で、本書で描かれる掛け替えのない憧れの存在から与えられる肯定感と、そこから得られた一時の幸福を、どこまでも追い求めてしまう残酷さに、自らの姿を認めてしまう読者も多いはず。多様性が重視されている今の世の中において、ぜひ読んで貰いたい作品だ。

評者/山本 亮
1977年、埼玉県生まれ。渋谷スクランブル交差点入口にある大盛堂書店に勤務する書店員。2F売場担当。好きな本のジャンルは小説やノンフィクションなど。好きな言葉は「起きて半畳、寝て一畳」

―[書店員の書評]―

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