思春期特有の葛藤と格闘――それは「ふつう」を求める「ふつう」の私たちの物語だ/『ふつうの軽音部 ①』書評
日刊SPA! / 2024年4月30日 15時51分
クワハリ(原作)・出内テツオ(漫画)『ふつうの軽音部 ①』(集英社)
世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。ここが人と本との出会いの場になりますように。
思春期に、あるいは若かりし頃に聴いた曲たち。その理由をうまく言葉に表すことはできないのだけど、なぜだか自分の心に響いてしまい、もはや自分のための曲なのではないかと思うような、そんな音楽があなたにもあるのではないだろうか。それはある種の衝動であり、自らを突き動かしていたその原理=理屈が理解できるのは、ある程度時間がたってからになる。
クワハリ(原作)・出内テツオ(漫画)『ふつうの軽音部』(集英社)を読んだ私は、大学時代にandymoriを何十曲もコピーしていたことを思い出したのだった。その詞が、メロディが、ライブでのメンバーの様子が、なぜかはわからないが私のためにあるように思えたのだ。いつしか聴くだけでは何かが足りなくなり、自分で演奏し歌うようになっていた。あの時間は、確かに私に必要なものだったのだ。
本書の主人公・鳩野ちひろは高校一年生。高校入学を機にギターを買い(向井秀徳も愛用していたフェンダー・テレキャスターの赤だ)、軽音部に入部する。自分の下手さにショックを受け、経験者の上手さに尻込みする。ゆえに部内でのコミュニケーションですら、自信のないままに交わされる。そもそも、クラスでの友人づくりもどこかぎこちない。しかしそれでもほとばしる音楽への情熱があり、鳩野はギターの練習を始める。
バンドを組んで練習をする。新入生ライブをどうにかやりきる。いつの間にか退部していく同級生たち。恋愛のもつれ。恋愛のもつれ。恋愛のもつれ。そう、これは「ふつうの軽音部」の物語なのだ。楽器初心者が陥るつまずき、軽音部あるあると言ってもよい部内恋愛のいざこざ……etc。軽音部経験者はもちろんのこと、未経験者にもわかる、つまり思春期特有の葛藤と格闘がここには描かれている。しかし「ふつう」と言いつつ「ふつう」ではない登場人物たちのすったもんだが、少しのほろ苦さとともに笑いを運んでくる本書は、端的に言ってとてもおもしろい。
とはいえ、ここでタイトルに付与された「ふつう」についても考察しないわけにはいかないだろう。
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