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25歳で永遠に老いない身体を手にした彼女の人生「無垢な吐露が切なく苦しい」/『ここはすべての夜明けまえ』書評

日刊SPA! / 2024年4月16日 8時51分

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間宮改衣・著『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)

 世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。ここが人と本との出会いの場になりますように。
 ずっとSFというジャンルが苦手だった。日々を生き延びることで精一杯の私は、目の前の現実だけが世界の全てなのだから、宇宙人やタイムトラベルやパラレルワールドのことを考えてもしょうがない、と思っていたのだ。なにより、現実にはありえない設定の小説を読んでも、どうも頭がついていかない。映画『君の名は』を2回観て、丁寧な解説サイトを読んでもまるで理解ができない。こんなこと現実には起こりえないのに、としか思えなかった。

 そんな私の固定観念を軽々と飛び越えた作品が、『ここはすべての夜明けまえ』だった。営業担当から、「きっとお好きだと思います」と勧められ、疑心暗鬼になりつつも読み始めてすぐに、これはただごとではないと直感した。この小説は、私の人生において大切な作品のひとつになる、と。

 舞台は2123年10月1日。九州地方の山奥、もう誰もいない場所。100年前に、永遠に身体が老化しなくなる「融合手術」を受けた「わたし」は、そのとき父親に促されたように、壮大な家族史を綴り始める。

 身体のほぼ全てをマシン化することで、永遠に25歳のままでいられるというその手術は、父親から提案されたものだった。

 もとより希死念慮のあった「わたし」は、2019年に国が認可した「安楽死措置」を受けたいと父親に相談したところ、猛反対を受ける。唯一の望みをなくして生ける屍となっていたある日、病院に運ばれた「わたし」は、医者に「融合手術」を紹介されるのだった。長生きすることに意味を見出せず悩んでいたが、「いつまでもかわいいまま長生きできるんだよ」と喜ぶ父親に押され、「わたし」は手術を受けることにした。もっとも、冷たくて硬い身体になってしまった娘を見た父親は急によそよそしくなるのだが。と、ここまでを読むだけで「わたし」の希死念慮は他でもない父親に理由があるということが何となくわかると思うのだが、実際その通りである。

 手術後、永遠に25歳の外見を手にした「わたし」は、実の姉にあたる「さやねえちゃん」の子供、つまり甥の「シンちゃん」と出会う。「シンちゃん」を幼いころから可愛がっていた「わたし」は、やがて告白される。成長した2人が恋人同士になったことを知った「さやねえちゃん」はショックのあまり自死を図った。

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