台湾の後輩に日本語で「お疲れ!!」 3年ぶり日本復帰の陽岱鋼、19歳の挑戦に「もっと来いよ!!」
THE ANSWER / 2024年4月23日 6時43分
■オイシックス入りの陽岱鋼、日本ハムの孫易磊と初めて対戦
プロ野球の日本ハムと巨人でプレーした陽岱鋼外野手は、今季3年ぶりに日本球界に戻ってきた。2軍イースタン・リーグに新たに参加するオイシックス入りし、徐々に出番を増やしている。19日に千葉・鎌ケ谷で行われた日本ハム戦では、嬉しい出会いがあった。台湾の後輩、孫易磊(スン・イーレイ)投手と初めて対戦。生まれ育った土地を若くして飛び出し、日本のプロ野球を志した2人にしかできない会話があった。
両チーム監督からの“粋な”舞台設定だった。この日がプロでの初実戦だった孫易磊が初めて対戦したのは、「1番・DH」で先発した陽岱鋼。全球ストレートの勝負を挑んできた母国の後輩を、陽は全力で受け止めた。
「もっと勢いつけてくるかなと思ってましたよ。『もっと来いよ!!』と思っていました。自分の調子がまだまだですけど……。いきなり155キロくらい来てほしかったね」
時折抜ける剛球に手を焼いた。陽はカウント2-2からの5球目、内角への152キロに詰まって一ゴロに終わった。先輩の貫録を見せることはできなかったが、18.44メートルを介して孫の大きなスケールは十分に感じた。「19歳であんなボールを投げられて、大したもんだなと思います。これからまだまだ、いろんなことを勉強するだろうし」と、どこかうれしそうだ。
試合を終えてすぐ、孫は緊張の面持ちでオイシックスのベンチ裏を訪れた。試合前には叶わなかった先輩との対面。陽は突然「お疲れ!」と日本語でしゃべりだした。「なぜか日本語が出ちゃいましたね。途中で『あ、台湾の言葉でいいんだ』と思って」。言葉を変えてからのやり取りで、どんなアドバイスをしたのか聞いてみた。
「先は長いから、とにかく怪我をしないようにということと、あとは勉強することが多いと思うから、少しずつしっかりやっていこうということですね」
1打席だけの対決は、陽が孫の内角152キロに詰まり一ゴロ【写真:羽鳥慶太】
■自らと同じ道を歩き始めた19歳に笑顔「台湾の高校生は…」
それは、かつての陽が歩いた道だ。鎌ケ谷にやってくるのは、巨人のファームで過ごすことが多かった2021年以来。2006年の日本ハム入りからしばらく暮らした球団寮も、グラウンドもそのままだった。
「僕の19歳の時はひたすら股割りでしたからね。もうヘロヘロになって、ご飯を食べたらまた夜間練習。福良さん(=淳一、現オリックスGM)、厳しかったな。懐かしいですよね」
遊撃手としてプロ入りした陽は、ここで内野守備を一からやり直した。股関節の柔軟性をつけるため、連日の股割りで悲鳴を上げていた。孫にもこれから、日本だからこそできる様々な発見が待っているだろうと言う。
「台湾の高校生は、みんなアメリカに行こうとするんですよね。中々日本には来ない。彼はすごい決断をしたと思うし、僕も正直楽しみですよ。日本は上下関係も厳しい。そこに19歳でいきなり飛び込んで……。周りはみんな大人で難しいこともあると思う。疲れることもあると思うけど、応援したい」
この日の孫は1イニングを投げ、四球を1つ与えただけの無失点で降板した。当然、次の対戦もあり得る状況だが陽は「もっとイニングを投げられるようになれば、たくさん対戦もできる。でもその前に、自分の調子を何とかしないとね……」と苦笑いだ。翌20日はスタメンを外れたものの、今度は自分のために貴重な舞台と言葉を得た。
■孫易磊との対戦翌日…今度は自身の長いプロ生活を感じる1日に
9回、日本ハムのマウンドに立ったのは1軍通算839試合登板、史上最多の393ホールドを誇る宮西尚生。オイシックスの橋上秀樹監督は、ここで代打・陽のカードを切った。「ブルペンで宮西が準備しているのは見えていたしね。エンターテインメントですから、こういうのもいいんじゃないですか」と狙っての起用だったと明かす指揮官は「ダイ(陽)も調子はまだまだですけど、このチームの打線を引っ張ってもらわないといけない選手ですから」と続けた。復調のきっかけにしてほしいとの狙いもあった。
土曜日のスタンドからは大歓声が上がり、勝負の行方を見守った。2-2からの直球を捉えると三遊間を抜け、左翼フェンスにまで到達する二塁打とした。さらに1死からの遊ゴロで三塁に突っ込み、最後まで好機を演出した。
この一打を、相手ベンチから見つめたのが日本ハムの稲葉篤紀2軍監督だ。現役時代は共に外野を守った間柄。練習中には、陽と打撃談義を交わしたという。「まだスピードに慣れていない感じだけど、当てに行こうとしているように見えてね。もっとゆったり振ったほうがいいんじゃないかとね」。ヒントをすぐ生かしての結果だった。
陽のオイシックス入りは、橋上監督とも親交の深い稲葉監督が間を取り持った。「日本に戻ってくればいいと声がかかるだけ、選手にとってはありがたいこと。彼の野球人生の中で、独立リーグにいったり、オイシックスに入ったりと、必ずどこかでプラスになる」とエールを送る。
37歳の陽と、19歳の孫。台湾代表を支えてきたスターと、これから支えるスター候補の野球人生が交錯した。対戦と言葉で、先人の知恵と経験が新鋭に伝わった。最近2年間は米国や豪州の野球を経験し、日本に戻った陽にしかできない“仕事”だ。続いていく対戦が、楽しみでならない。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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