球速130キロでもプロ野球に行ける 2軍新球団の監督が期待する変化…現場の声は「無視できない」
THE ANSWER / 2024年4月26日 18時34分
■オイシックスの橋上秀樹監督が「はっきり変わる」と指摘するのは…
プロ野球の2軍には、今季から新たに2つの球団が新規参加した。イースタン・リーグに加わったのが、昨季まで独立のBCリーグで戦っていたオイシックス新潟アルビレックスBCだ。チームを率いる橋上秀樹監督は、NPBの複数球団でコーチを務めた経歴があり、故・野村克也氏の懐刀としても名を馳せた。NPBからのドラフト指名を目指す若い選手にとっては、プレーする舞台が変わることで明らかなメリットがあるという。(取材・文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)
オイシックスは開幕から、なかなか白星を挙げられずに苦しんだ。元阪神の高山俊外野手、元巨人の陽岱鋼外野手らNPBでの実績を持つ選手が新加入したものの、チームの中心となるのはドラフト指名を目指す若い選手たちだ。NPB選手たちとの最大の違いは「あらゆるスピード」だと橋上監督は言い、その壁を乗り越えていく必要がある。
投手で言えば球速だ。日本球界でも、もはや150キロを投げる投手は珍しくない。ただ一方で指揮官は、NPB2軍への参加が魅力の「伝わりにくい」選手にも光が当たるチャンスだと考えている。対戦相手の選手や首脳陣といった現場からの声が、スカウトや球団首脳に伝わる。すると「スピードはないのに、なぜか打てない」といった選手も、NPBに行ける確率が高まるのではないかというのだ。橋上監督は言う。
「これはイースタンのチームと試合をできるメリットで、はっきり変わるのではないかと考えています。相手チームの首脳陣に見てもらえるということですね。フロントも、現場の声はやはり無視できないはず。自分のチームが抑えられている選手なら、スカウトも押しやすくなる」
現在は投球に対する計測技術が発展し、球速だけではなく回転数、変化の方向や量などあらゆる観点から数値で示される時代だ。ただ、数値に現れない良さも「絶対にあります」と橋上監督は言い切る。
現在はオイシックスのコーチを務める武田勝氏。数値に出ない良さがある典型だという【撮影:羽鳥慶太】
■130キロでも抑える投手はいる…現場からの声が指名につながる?
例として挙げるのが、今季オイシックスの投手コーチに就任した武田勝氏(元日本ハム)だ。直球の球速は130キロにも満たないという左腕だったが、プロ通算82勝を挙げた。複数の球種を全く同じフォームから投げ分けられるという特徴があり、打者は手を焼いた。
楽天のヘッドコーチとして武田氏を攻略する側だった橋上監督は「ああいう投手がアマチュアや独立にいても、評価されないんですよ。ただ、NPBの2軍と試合をするとなれば別です。『なぜか打てない』という情報があれば『なぜだろう?』となる。評価されるチャンスが生まれるんです」。ヤクルトで通算185勝を挙げている石川雅規投手も、その類だという。
「普通に投げていても、ほとんどのスカウトは見逃すと思うんです。中途半端な選手だったら、ドラフトにかけないのが一番となるので。ただ現場の目があれば、ギリギリのところが可視化される。『オイシックスのあのピッチャー、ボールは遅いけどいいよ』という声があれば、放っておけなくなる」
このメリットは、今季新たに加入した高山俊外野手(元阪神)や薮田和樹投手(元広島)ら、NPBへの復帰を目指す選手にとっても同じだ。「2軍の選手と日常的に当たっていれば、獲得する側も判断しやすくなる」と見ている。シーズン中の復帰が叶うなら、期限は7月末。オイシックスにとっては体力消耗が激しい夏場の戦力ダウンとなるが「それはもう、ウェルカムですよ。NPBに戻れたという実績が何より大きい」と諸手を挙げて歓迎するつもりだ。
これまでも、NPBから戦力外通告を受けた選手が、復帰を目指し独立リーグでプレーする例はあった。ただ復帰がかなったのはほんのひと握りで、あまりにも狭き門だった。その流れをオイシックスが変えられればと考えている。「NPBからの戦力外は毎年、必ず出るわけです。そこからオイシックスでプレーして戻れたという例ができれば、選手にお願いして来てもらうんじゃなく、自らこの道を選んでくれるようになると思うんです」。
NPBからも「2軍に刺激を与えてほしい」とリーグ拡張の狙いを伝えられている。「ひたむきなプレーもそうですが、発展途上の選手に刺激を与えて、さらに活性化させたいということだと思うんです」と橋上監督。数値だけでは計れない良さを持つ選手の発掘も、その一環となるのかもしれない。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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