なぜ韓国ドラマはウケるのか? マーケティングにおける「パクリ」について考える
LIMO / 2020年7月5日 19時0分
なぜ韓国ドラマはウケるのか? マーケティングにおける「パクリ」について考える
筆者の専門は金融です。映像コンテンツをああだこうだとコメントするのは場違いであることは重々承知しています。ですので、そんな輩のコメントは聞きたくないという方は、ご放念ください。
筆者は金融機関の資金運用に携わった後、投資信託のマーケティング(販促・広告宣伝活動)に25年程度関わっていました。ですので、投資信託を販売方法には一家言持っています。
韓国ドラマはマーケティングが秀逸
投資信託は金融商品ですからいろいろな規制があります。広告宣伝についても然りです。そのため、販売活動上で言えることに限界があります。たとえば、「この投資信託は絶対損しません」とか、「この投資信託は絶対上がります」などという表現は100%ご法度です。
なぜなら、投資対象が価格変動する株式や債券などの価格変動資産ですから、もともと保証なんてできっこないからです(究極的には預貯金も同じ)。でも、そのギリギリの線を狙って訴求するのがマーケティングの極意です。
で、韓国ドラマです。
一時期の韓流ブームは去りましたが、『パラサイト』が第72回カンヌ映画祭(2019年)で最優秀賞を獲得し、第92回アカデミー賞(2020年)でも作品賞を初めとする4冠を獲得してから、またまた韓国ドラマが注目されています。
筆者はテレビをほとんど見ませんが、それでも家人が詳しく解説してくれるので大体の内容は把握できます。最近話題の『愛の不時着』は、浦島太郎系の“秘めた恋”の現代版でしょうか。成就しない恋は燃える、というアレです。
さて、その韓国ドラマが面白いと人気なのには理由があります。それは、絶対的に面白いかどうかという観点より、面白く見せるのが上手い、という点。
実は投資信託も似たりよったりで、絶対的に優れた映画がないのと同じく、絶対的に優れた投資信託はありません。
ですので、売れるためには販売戦略としていかに内容を魅力的に感じさせるかが腕の見せどころになります。映画で言えば監督の、投資信託で言えば金融機関のマーケティング担当者の技量が試されるというわけです。
マーケティングはパクってなんぼ?
『パラサイト』を見ていない読者は、ぜひ一度見てください。好みがあるので評点はしませんが、売れる映画のポイントがそこらじゅうに散りばめてあります。
言い換えれば、本当に面白いかどうかは別にして、いかに観客を満足させる商品に仕立てているかということ。投資信託で言えば、本当に儲かるかどうかは別にして、儲かりそうな感じを醸し出して買ってもらう工夫、とでも言いましょうか。以下、販促に携わっている関係者はぜひ参考にしてください。
1. パクリのうまさ
『パラサイト』のオープニングは、イケてないけど仲のいい4人家族の日常から始まります。しかも失業中のお父さん、オーバーサイズのお母さん、デキの悪い茶髪の長男長女、でもメッチャ仲がいい。なにかやらかしそうな感じが満載の家族です。
これって、『万引き家族』の入りとそっくりですよね。後者の家族関係は多少複雑ですが、前者はもっとシンプルにしたと考えてもいいでしょう。どちらも貧乏家族が題材ですが、自分はそんな貧乏家族よりマシなんだと認識したい視聴者の深層心理を上手く突いています。
でも、そっくりながら、前者が後者をパクったと証明はできません。これまた韓国ドラマが巧妙なところです。
2. 興味をつなぎとめる演出
最後まで飽きさせないで見させるのが映画監督、すなわちその商品を買わせるマーケターの手腕です。上映途中に映画館から出られて「つまんね」なんてSNSに書かれたら次はありません。ですので、いかに大げさに舞台設定を描くかが一つの勝負です。
『パラサイト』には貧富、広狭、高低、乾湿、美醜、愛憎、悲哀、成否、生死など、二家族の対比が嫌というほど出てきます。1963年の黒澤映画の傑作、『天国と地獄』もそうでした。もっとも同作品も、米国の犯罪小説が題材とされています。
3. どんでん返し
『パラサイト』の途中までは、金持ち一家のお雇い社員になりすました貧乏家族がハッピーエンド、ハイ終わりみたいな感じですが、ここからからドンデン返しが始まります。
常識的に考えればあり得ない設定ですが、住み込みのお手伝いさんを雇えばさもありなんと想像させるのがうまいところです。しかも、それまではストーリーとほぼ関係のなかったお手伝いさんが主役に転じる巧みさがあります。
このドンデン返し部分、『カメラを止めるな!』とそっくりだと思っているのは筆者だけではないでしょう。
結局、重要なのは「見せ方」
ことほどさように、映画だけではなく、ビジネス一般にパクリがあるのは日常茶飯事です。
そもそもビジネスはオリジナリティだけではできません。グーグルは百科事典、アマゾンは通信販売、フェイスブックは電話帳、アップルiPodはウォークマンの電子化ビジネスですから、ゼロからサービスをスタートしているわけではありません。
今はZOOMやスカイプが注目されていますが、30年前から双方向テレビ会議システムはありましたから、オンライン会議自体そんなにびっくりするほどのテクノロジーではありません(ただし、当時の通信速度は恐ろしく低く、動画はフリーズしまくりの紙芝居以下レベルでしたが)。
こう考えると、投資信託もしかりです。もともと株式か債券かに分散投資するのが投資信託です。でもこれだけの説明では、食材をそのまま客に出すレストランみたいなものです。
ですので、同じ株式に運用する投資信託でもテーマやストーリーを付加するのです。たとえば、最近売れている投資信託の名前には、“グローバル”、“ハイクオリティ”、“テクノロジー”、“イノベーティブ”、“ロボティクス”なんていうのが入っています。何かやってくれそうなイメージを与えてますよね(図表1参照)。
投資信託は将来のリターンを保証できませんから、差別化するにはまずはネーミングが重要です。逆に言えば、投資信託の購入者はネーミングに惑わされずに、中身を見なければいけないということです。
韓国ドラマは確かに面白いと思います。決して日本のドラマがつまらないわけではなく、結果的に世界の多くの視聴者にどのようにすれば見らえるかを、より追及しているのは韓国勢ということになるでしょう。映像商品も投資信託も、中身の優劣もさることながら、売れるためには見せ方(=マーケティング)が最も重要だということですね。
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