第6章 投資シグナルの読み方。景気、金利と個別株の関係

トウシル / 2019年10月28日 5時10分

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第6章 投資シグナルの読み方。景気、金利と個別株の関係

流れに逆らって泳ぐのはしんどい

 よく「銘柄選びさえ正しければ、景気や金利は関係ない」という意見を聞きます。確かにそれは一理あると思います。どんなに不景気でも業績を伸ばしている企業はあるし、弱気相場をものともせず上昇している株はあります。

 ただ、だからといって景気や金利を全く無視して良いか? と言えば、私はそのようなアプローチには賛成できません。なぜなら、不利な環境の中で投資をすることは、川の流れに逆らって泳ぐのに似ているからです。甘い判断は、事故のもとです。

 だから最低限、「いま泳ぐのは安全なのか、それとも危険か?」くらいのことはわきまえてください。その上で、もしそれでも泳ぐというのであれば、それなりの覚悟が必要だと思うのです。

 いまが安全な時か、それとも危険かを判断するためには、そもそも経済や金利がどういった状態のときに、それが「潮がきつい」とか「水が冷たすぎて体力の消耗が激しい」などの危険信号に相当するのか、シグナルの読み方を知る必要があります。

金利と株式。悪いニュースは、ポジティブ材料

 金利と株式は、競争関係にあります。

 いま仮に銀行預金の利子が5%だとしましょう。すると銀行にお金を預けるだけで、ノー・リスクで5%のリターンが見込めるわけですから、株式が投資家の資金を獲得しようとすると、それよりずっと魅力的なリターンが見込めなくてはいけません。

 つまり、市中金利が高くなればなるほど、株式投資のハードルは高くなるのです。

 リーマン・ショックのような、経済を脅かす大事件が発生したら、中央銀行は速やかに利下げします。これは上の説明の流れからいくと、株式投資のハードルを下げることで、資産価格の防衛に乗り出すことを意味します。だから「利下げは株式にとってプラスなのだ」ということを理解してほしいのです。

 もちろん、政策金利の引き下げは、すぐに株式市場の上昇をもたらすとは限りません。普通、緩和措置が実体経済に効いてくるまでには、相当のタイムラグがあります。だから性急に出動し過ぎたら、やられる心配があるのです。

 この場合、利下げが発表されたにもかかわらず、経済のニュースは暗いものばかりが、これでもか、これでもかと続きます。具体的には企業倒産、失業率の上昇、自動車販売台数の落ち込み、住宅着工件数の低迷、鉱工業生産の低迷などです。株式市場の見通しに関しても悲観的な記事が多くなります。「利下げしたのに、なぜ経済は一向に好転しないのだろう?」……そういう焦りが出たとき、投資家は株式市場に見切りをつけます。

 しかし、ある時点から経済のニュースは依然として悪いのに、もう株価はそれに不感症になって、下がらなくなります。具体的には、それまでどんどん増えていた新安値銘柄数が、もうあまり増えなくなるのです。

 また、相場の大底では人々の関心は株式市場から離れてしまい、出来高は細る傾向にあります。投資家の気持ちが「もうそろそろ買い出動をかけて大丈夫だろうか?」というものから、「もう二度と株に手を染めたくない!」という辟易(へきえき)したムードに変わる……この時点で、第1回目の買い出動をかけてOKです。

 この局面の株価は、株式投資を始めて間もない投資家にとって、理解しにくい動きをします。不景気なニュースは、さらなる金融緩和を催促するものとして、株式市場参加者にポジティブに受け止められるのです。つまり「悪いニュースは、ポジティブ材料」というわけです。

 市場参加者は、金融緩和というものが累積的に、ジワジワ実体経済に効いてくるということを経験から知っています。株価には先見性があり、投資家は「いずれ緩和が実体経済に効いてくるのなら、先回りして株を仕込もうか?」という発想をするわけです。

 この段階ではいまだ景気は悪いわけですから、企業の業績もパッとしません。つまり投資家の期待を支えている唯一の支援材料は、金融緩和だけなのです。これが「金融相場」の初期の姿です。

 その場合、ニュースはどれも暗いものばかりで、金融緩和だけに一縷(いちる)の望みを託す……というと、いかにも危なっかしいように聞こえるのですが、実際にはこの段階での投資は比較的リスクが限定されています。なぜなら、中央銀行がクッションを提供しているからです。従って年季の入った投資家ほど、金融相場の初期段階では積極投資します。

 往々にして、そういう局面で人気化するのはバイオテクノロジー株やインターネット株のような普段から株価評価の高い銘柄である場合が多いです。これは低金利下ではPER(株価収益率)が拡張しやすいことを見越した投資戦略によります。

 金融相場初期段階でプロ投資家が果敢にリスクを取るのと対照的に、株式投資を始めて間もない投資家は暗いニュースに怖じ気(おじけ)づいて、なかなか投資に踏み切れません。

プロの投資家は「金融相場が8割、業績相場が2割」

 米国のプロの投資家は儲(もう)けの源泉として「金融相場が8割、業績相場が2割」という捉え方をしています。金融相場というものに対して、プロは大きな信頼を置いているわけです。

 裏返していえば、個人投資家は金融相場を過小評価し、業績相場を過大評価しすぎる傾向があるのです。

 これは悪いクセなので、金融相場と仲良くつき合う態度を早く身に付けてください。

 さて、金融相場の後半では、実体経済が改善しているというニュースがチラホラ入ってくるようになります。この局面では売られ過ぎた小型株が大型株よりスルスルと上昇するケースがよく見られます。

 中央銀行はそろそろ緩和を止める頃合いを見計らうようになります。その場合、「景気に関する良いニュースは、緩和が終わってしまうので、売り材料だ」というふうに取られる現象が見られるようになります。

 株式投資を始めて間もない投資家の場合、(なぜ良いニュースを素直に好感しないの?)というふうにいら立ちを覚えます。でも、これは政策金利のベクトル(方向)が、「緩和」から「中立」へと移行する過渡期だから、そういうことが起こるのです。

 米国の政策金利はフェデラルファンズ・レートです。それを短縮してFFレートと呼ぶ場合もあります。

図:フェデラルファンズ・レート

単位:%
出所:セントルイスFRB

景気と株式。業績の伸びを追いかける

 よく「のど元過ぎれば」という表現がありますが、1回目の政策金利の利上げが発表された後から、投資家は新しい切り口で相場に取り組もうとします。「そもそも利上げされたのは、経済が好調だからだ」というわけです。つまり、ようやく立ち直った経済に素直に喝采(かっさい)し、業績の伸びを追いかけるような株の買い方が主流になるわけです。これが業績相場です。

 そのような相場は、プロにとっても、株式投資を始めたばかりの投資家にとっても、分かりやすい相場です。鉄鋼、自動車、工業などの業種は固定費が高いビジネスです。そのようなビジネスでは、ある程度、売上高が確保できないと利益が出せません。そのことを「損益分岐点が高い」と表現します。

 しかし、ひとたび売上高が損益分岐点を超えると、今度は面白いように純利益が伸び始めます。なぜなら売上高の伸びに対して、固定費の伸びはそれほど伸びないからです。そうなれば追加的な売上高の伸長は、面白いように利益にはね返ってきます。低位株、「重厚長大」的なイメージの株などが人気化するのは、このような局面です。

 さて、この時期の相場では市場参加者の数がだんだん増え始め、信用取引の残高も膨らみ始めます。IPO(新規株式公開)などの件数も増えます。企業買収のニュースも新聞紙上を賑(にぎ)わすようになり、自分がたまたま投資していた先の企業が買われて、ラッキーな思いをする投資家が増えてきます。経済指標も良いし企業業績も良い。そして株価も高い……というわけで、株式投資が一番面白く感じられる局面と言えるでしょう。

 しかし、中央銀行はその間もインフレに目を光らせているものです。金利政策が経済の強さに対して緩和的過ぎると、それは将来のインフレ誘発の原因となってしまいます。このため規則正しいペースで、利上げをします。

 面白いもので、投資家は1回目の利上げをあれほど恐れたにもかかわらず、2回目、3回目になると利上げに慣れっこになってしまい、利上げのニュースには関心を払わなくなります。「どうせ金利の水準はまだまだ低いのだし、今は経済に勢いがあるから、大丈夫」というわけです。

マーケットの天井は忍び足でやってくる

 本章の冒頭で、金利と株式は競争関係にあるという話をしました。するとヒタヒタと利上げされているという状況は、投資家が知らず知らずのうちに金利という競争相手がだんだん手強くなることを意味します。でもこの頃には、投資家はすっかりリスクに鈍感になってしまい、楽観的な態度になりがちです。

 相場の天井では、指数が新高値を更新していても、騰落線が伸び悩む、新高値銘柄数が減少するなどの、注意深くマーケットを観察している人だけが気がつく微妙な変化が現れます。

 マーケットの天井は、投資家が皆、安心しきって、枕を高くしてぐっすり安眠しているときに、勝手口から忍び足で侵入してくるのです。

 経済や企業業績のニュースはすこぶる良いにもかかわらず、買っても買っても不思議に儲からない……そういう状態になったとき、今まで無視してきた金利水準は、いつの間にかずっと高くなってしまっていることに気がつくのです。

 株式市場が下落を始めると、不動産価格も崩落することが多いです。あらゆる資産価格が下落し、世の中は急に不景気になります。この局面での株価の調整幅は、中央銀行が最初に利上げに着手したときの調整よりもずっと大きい場合が多いです。また、急いで利下げに転じても、しばらくの間はそれが資産価格の下落を食い止めることはできません。株式投資で一番大きく損するのは、この局面です。

 以上が、景気と金利が株式に対して与える影響の概略です。自分の立ち位置が大体把握できれば、その時々にやるべきことがハッキリします。だから「今がサイクルのどこに相当するのか?」ということを常に自問する習慣をつけてください。

第7章「株はいつ買って、いつ売る?」はこちら

(広瀬 隆雄)

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