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中国共産党100周年:中国が経済成長を続けるために不可欠な2つの鍵

トウシル / 2021年7月1日 6時0分

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中国共産党100周年:中国が経済成長を続けるために不可欠な2つの鍵

共産党100周年に当たり「真っ赤」に染まる中国全土

 本日(7月1日)、中国共産党が結党から100周年を迎えます。天安門周辺で記念式典が行われ、習近平(シー・ジンピン)総書記が談話を発表するものと思われます。

 先週のレポートでも、100周年を前にして、記念式典に向けた第1回リハーサルや政治の季節を利用し、人民の愛国心に火をつけ、景気を活性化させようとするレッドツーリズムについて扱いました。

 6月26日夜から翌日朝にかけて行われた第2回総合リハーサルには3.3万人が参加し、入退場から現場のセキュリティーなど全アジェンダをチェックし、万全の体制で「七・一」を迎えるべく官民一体で盛り上げているようです。

 29日には、100周年を機に、「七・一勲章」授章式典が天安門西側に位置する人民大会堂で開かれ、中国共産党の発展に貢献してきた「優秀党員」(農村部の教師、作曲家など)が表彰されました。

 首都・北京を中心に、全国各地は「真っ赤」に染まっています。例えば、知人が送ってくれた江蘇省南京市の地下鉄車両内の映像を見ましたが、ドア、床、座席、手すりなどが真っ赤に塗られ、至る所に「祝中国共産党建党百周年」の広告が掲げられていました。

 私自身、北京で生活していたとき、そしてその後、中国の地へ足を運ぶたびに、政治の季節を中心に、街の至る所、ショッピングモールなど商業施設の中に張られ、掲げられている「紅色広告」(筆者注:共産党の功績を宣伝する広告)を目にしました。

 これを眺めながら、党・政府は業者に広告費を払っているのか、どこか業者が仲介しているのか、あるいは、「紅色広告」の掲載は政治命令であり、官民、室内外を問わず、「載せろ」と言われれば、他のどのような広告も差し置いて、党・政府に言われるままに載せなければならないのだろうか、などいろいろ考えこんだものです。

 一つ言えるのは、政治の季節になるたびに見られる、国全体が真っ赤に染まる光景は、中国共産党が中国という大地を統治していく上で極めて重要な「武器」だということです。

 中国建国の父・毛沢東(マオ・ザードン)が「鉄砲から政権が生まれる」と言ったのは有名ですが、「槍杆子(鉄砲)」だけではなく「筆杆子(ペン)」、つまり宣伝工作を駆使することで、政権を奪取、運営していく方針を徹底的に実行していました。

 その方針や実践は今でも変わりません。共産党政権の権威を保持し、中国の政治を安定させるために、世論を誘導し、異見を抹殺し、人民を“洗脳”することすら辞さない。100周年を迎えるに当たり、むしろその傾向は強まっています。

”絶対無二”の中国共産党と14億の中国人民

 6月25日、国務院新聞弁公室が『中国新型政党制度』と題した白書を出版しました。共産党が領導し、“民主派”政党が参政する政党制度(中国語で「共産党領導、多党合作制」)がいかに中国に根付き、発展に寄与してきたかを強調しています。

 同白書も認めているように、中国で8つある民主派政党は、日本や欧米を含めた民主主義国家で言うところの「野党」ではありません。現体制が続く限り、民主選挙を通じた政権交代も制度的にあり得ません。

 中国の政治体制において、民主派政党とは、共産党一党支配下において、共産党のイデオロギー、政策、戦略、方針などを擁護、支持することを大前提に、政策提言を行っていく組織に過ぎません。

 そして、習総書記に権力が一極集中し、共産党が絶対的領導を強調する現状において、体制内部においても、異なる意見や提言をする状況は考えられません。「右に倣(なら)え」の姿勢で、習近平総書記は偉大だ、共産党万歳を徹底するしかないのが昨今の空気感です。

 これまで、本連載でも中国経済、米中関係、アリババ社といった企業動向といったテーマから、中国の現在と今後を分析してきましたが、中国を理解する上での大前提、最重要事項が、本日、100歳を迎える中国共産党の動向と実態を綿密に追跡、分析することにほかなりません。

 共産党が何を根拠に「与党」の地位に君臨し、14億の人民、巨大な国土を統治してきたのか、していくのかを、100周年を機に整理してみることは、この強大経済がどこへ向かうのかを占う上で、有益な作業となるでしょう。

 中国共産党自身は、あらゆる公式な場面、談話、声明などで、中国が実践してきたのは「民主政治」だと断固主張してきました。

 しかし、実際のところ、習近平総書記をはじめとした最高意思決定機関である中央政治局の常務委員(計7人)や委員(計25人)、約3,000人から成る「国会議員」に当たる全国人民代表、そのトップにいる栗戦書(リー・ジャンシュー)全国人民代表大会常務委員会委員長兼政治局常務委員(序列3位)を含め、彼らは人民(有権者)によって直接的、あるいは間接的に選ばれたわけではありません。中国の官僚機構システムの中で、出身、経歴、派閥、業績などあらゆる指標を根拠に選抜されてきたのです。

 たとえば、永田町ではなく、霞が関の省庁において、あるいは大手企業において、激しい競争、人事をめぐる駆け引きやつぶし合いの中で、新入社員からトップまで駆け上がってきたイメージです。習近平、李克強(リー・カーチャン)両指導者とて例外ではありません。

 その意味で、一部チャイナウオッチャーが、そんな中国を「中華人民共和国株式会社」と称するのには、一定の比喩力と説得力があると私は思っています。

 ただ、往々にして、政策や人事はブラックボックスの中で決定されます。体制に近い、政策に影響力のある知識人や企業家が何らかの役割を果たすことはありますが、基本的に、党指導部の政策決定に、民間人や一般人が関与することはありません。

 メディアは原則党・政府の統制、管轄下にあり、政策を監視、批判する機能は持ち合わせていません。基本的に、党・政府の政策を代弁、擁護する宣伝機関と化しています。

 前述のように、政治の現場で共産党の政権運営を監視監督する「野党」も存在しません。デモ集会は厳しく制限、抑圧されているため、人民が直接、間接的に権力者に異を唱える場面もありません。

 そんな中、人々が自らの意見を発表できる唯一のプラットフォームが、インターネット上だと言われてきました。すでにユーザー数は10億を超えています。

 確かにそういう側面はあるでしょう。しかし、習近平政権下において、ネット上の議論や言論も、24時間体制で厳格に監視され、例えば、中国版ツイッターと言われる「ウェイボー(微博)」上で、当局が嫌がるつぶやきをしたユーザーには、公安派出所から直接電話がいく、突如訪問されるといった形で、すぐさまツイートを削除するように、さもなければアカウントを永久に凍結するといった措置が取られています。

 自らの「お上」として君臨する為政者を自らの意思で選べない。政策や世論の形成過程に関与する権利もない。自らの考えや要望を訴える空間もない。

 にもかかわらず、なぜ14億の中国人民は、そんな現状を甘んじて受け入れているのでしょうか? 

 中国人がそれほどお人好しだからでしょうか? 

 鈍感力に優れているからでしょうか? 

 あるいは、歴史上まれに見る忍耐力や愛国心を集団的に身につけているからでしょうか?

中国が持続的に成長を遂げるために不可欠な2つの鍵

 先日、ある日本の元外交官と議論をしました。日本の対アジア太平洋政策にも深くかかわってきたこの方は、中国の行き先について、次のような問題提起をしてきました。

「中国共産党が生き残れるか否か、経済成長が鍵だと思う」

 上記の疑問に答えるための視座が詰まった一言です。中国の人々は、お人好しでも、とんでもない鈍感力、忍耐力を持っているのではありません。経済力や軍事力といった国力が向上し、コロナ禍を含め国際的な影響力が増し、五輪を開催したりする中で、党指導部の宣伝工作も功を奏して、国民の愛国心が高揚しているという経緯はあるでしょう。

 ただ、14億の人民が非民主的に選ばれ、治める共産党を受け入れているのは、経済が成長しているから、生活が物質的に豊かに、便利になっているからです。沿岸部と内陸部、都市部と農村部のいわゆる格差が問題視されることがありますが、これらすべての地域において、人々は、他者、他地域との比較ではなく、自らの昔と比べて豊かになっているのです。

 ただ、仮にこのような前提が崩れたらどうなるか。

 物価の高騰に収入が追い付かなくなったら? 子供の教育にかかる費用が高すぎて、生活が困窮したら? あるいは、中国と諸外国との関係が悪化し、経済的に孤立する中、取引が停止、経営が苦しくなり、多くの倒産企業、失業者が出たら?

 それでも、人々は非民主的に君臨、運営する共産党政権を“甘んじて”受け入れるでしょうか? 私はそうは思いません。人民が経済成長の果実を直接的に享受できなくなれば、それこそ、捨て身の精神で、暴動や造反を引き起こす場面も出てくるでしょう。盛衰を繰り返した中国の歴史が証明しているとおりです。

 非民主的な中国共産党による国家運営が持続的に実行され、そのために、経済が持続的に発展していくかどうか。本稿の最後に、私が考えるところを2点議論したいと思います。

 一つ目が、経済が永遠に成長し続けることはない、人々の生活が永遠に経済の恩恵を受け続けることはないという合理的判断・予測に立脚し、経済成長以外で、人々の納得感を増大させる分野を増やしておくことです。例えば、言論の自由、市民の政治参加などです。

 景気が悪くなり、企業経営が悪化したり、中国と諸外国との関係が悪化しても、それを解決するための政策議論や世論形成に、自らも参加しているのだからという当事者意識(オーナーシップ)が普及すれば、人民の共産党政権への許容度、包容力も増していくでしょう。

 二つ目に、経済を持続的に成長させるための措置を取る、対策を打つことです。この意味で、鍵を握るのがイノベーション(中国語で「創新」)です。習近平政権は「創新」国家戦略の観点から重視し、これからは、投資、資源、労働力といった要素ではなく、イノベーションに立脚した成長戦略を掲げ、経済を持続的に発展させるべきだと主張しています。

 しかしながら、私が見る限り、習近平政権になって、政治の経済に対する介入、政府の市場に対する干渉が横行し、マーケットの主体となる民間のプレーヤーが伸び伸びと活動できていないのが気になります。製造業、サービス業、研究開発、インターネット企業、フィンテック、文化芸術などを含めてです。習近平一強政治の弊害だといえます。

 この意味で、中国経済がイノベーションに立脚する形で、持続的に成長していけるか否かは、共産党が「創新」を国家戦略の次元で重視しつつも、必要以上に干渉、介入しないこと、あらゆる規制緩和や市場主導を通じて、タレントぞろいの中国の人材に伸び伸びと、生き生きと、市場の論理で、日々の仕事に打ち込んでもらうことに懸かっているように思います。

(加藤 嘉一)

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