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恒大集団は救済される?されない?5つの観点から習近平の決断を探る

トウシル / 2021年9月30日 6時0分

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恒大集団は救済される?されない?5つの観点から習近平の決断を探る

 約33兆円という負債を抱える不動産大手・中国恒大集団(チャイナ・エバーグラン・グループ)のデフォルト(債務不履行)危機が続いています。期限の迫る社債への利払いができるのか。全国に広がる抗議活動は収まるのか。不動産市場や中国経済への影響はどうなるのか。

 前回レポートの続編として今回は、急成長を遂げてきた中国恒大集団が、習近平(シー・ジンピン)政権の“餌食”になることが避けられない理由を、同政権が掲げる政策目標5つのポイントから解説していきます。

餌食になる理由1:債務超過問題の解決

 毎年末に開かれ、翌年の経済政策を定める重要な会議である中央経済工作会議で2015年12月、2016年に向けて、次の「5大任務」が発表されました。

(1)過剰生産能力の削減
(2)過剰在庫の削減
(3)脱・レバレッジ
(4)コストの引き下げ
(5)脆弱(ぜいじゃく)部分の補強

 この5点は、主に第13次五カ年計画(2016~2020年)の経済政策目標として掲げられましたが、第14次五カ年計画(2021~2025年)に当たる現在に至っても明確に受け継がれているのが(2)(3)(4)です。

「(2)過剰在庫の削減」は後述する「理由3:不動産バブルの解消」にも関わる不動産市場の項目ですが、第13次五カ年計画の当時は「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが全国各地に出現し、住宅の供給過多が懸念されていました。

「(4)コストの引き下げ」は主に、中小・零細企業が資金難や経営難から逃れるための、ミクロレベルの規制緩和という様相を呈しています。

 そして、私が見る限り、昨今に至るまで中国当局が最も警戒しているのが、「(3)脱・レバレッジ」です。

 シャドーバンキング(影の銀行)を通じた融資の急拡大などによる債務超過を緩和することは、中国経済の健全な発展、金融システムの安定にとって極めて重要である、そのために高すぎるレバレッジ率は大いに警戒し、対処しなければならないというのが当局の立場です。

 中国恒大集団はまさに債務超過でデフォルト危機にあり、かつそれが中国経済や金融システム全体に影響を与え、リスク化しているわけですから、習政権として全力を挙げて対処しなければならない問題のど真ん中にあると言えます。

餌食になる理由2:金融システムリスクの防止と解消

 次の舞台は2017年11月に開催された第19回共産党大会。中国で最も重要な政治会議です。

 ここで報告を行った習総書記は、政策目標である「3大堅塁攻略戦」(中国語で「3大攻堅戦」)を掲げました。現在に至るまで優先的に掲げられている目標ですが、端的に言えば、(1)金融市場における重大リスクの防止と解消、(2)貧困撲滅、(3)環境汚染の改善の3つです。

 あれから約4年が経ち、2022年の秋には第20回党大会が開催されようとしていますが、現時点で、「(2)貧困撲滅」はすでに明白な成果を挙げており、当局の発表によれば、2020年末の時点で貧困撲滅の戦いは決定的な勝利を得たとのこと。「(3)環境汚染の改善」も一筋縄にはいきませんが、中国全土における大気汚染は、以前に比べて改善しているのを実生活でも実感できるようになっています。

 そして、「(1)金融市場における重大リスクの防止と解消」ですが、「理由1:債務超過問題の解決」で解説した債務超過問題も重なり、なかなか成果が上がりません。

 今回の「恒大ショック」も、「金融システムを揺るがすほどの威力を持つ可能性」を当局や市場関係者は警戒しているわけで、習政権として全力で対処していく問題であることが「理由2:金融システムリスクの防止と解消」からも見て取れるわけです。

 9月27日、中国人民銀行(中央銀行)通貨政策委員会が第3四半期の例会を開催しましたが、その中で「不動産市場の健康的な発展を守り、住宅消費者の合法的な権利と利益を守る。金融のハイレベル、双方向の開放を推進し、開放の条件を高める中で、経済金融の管理能力やリスク防止・制御能力を高めていく」と指摘。恒大ショックに象徴される不動産市場をめぐる動向が、金融システムの安定性に確かな影響を及ぼすと明示していることが分かります。

餌食になる理由3:不動産バブルの解消

 2012年秋に発足した習政権は、不動産バブルの形成と崩壊を終始懸念してきました。それは、不動産市場に過度に依存し、経済成長を実現してきた胡錦涛(フー・ジンタオ)政権の経済政策に対する一種のアンチテーゼと見ることもできます。

 中国恒大集団は1996年に設立され、2009年に香港で上場。要するに、不動産企業に「友好的」であった胡錦涛政権(2003~2012年)時代に急成長を遂げた民間企業なのです。もちろん、現在に至っても、不動産市場が中国経済にとって重要なけん引役であることに変わりはありません。創業者の許家印(シュー・ジャーイン)氏は習政権でも全国政治協商会議の常務委員を務め、今年2021年7月1日に天安門広場で開催された中国共産党結党百周年記念式典にも来賓として招かれています。故に、習政権が同集団、同氏をピンポイントで敵視しているというわけでは決してありません。

 しかしながら、不動産バブルを警戒し、そのためにさまざまな規制強化策を施してきた習近平新時代は、許氏にとって居心地のいいものではないでしょう。EV(電気自動車)など他の分野に積極的に進出し、事業を拡大するに至った背景には、同氏の習政権・新時代に対するリスクヘッジという見方もできます。

餌食になる理由4:格差是正

 先日、本連載で「共同富裕」を取り上げましたが、低所得者層に寄り添う政治を行う、高所得者層との格差を縮小するというのは、習政権の基本的政策です。「理由2:金融システムリスクの防止と解消」にある「3大堅塁攻略戦」に含まれる「貧困撲滅」も同じ論理です。

 どの国でもどの人にとっても、住宅というのは人生で最も大きな買い物の一つだと思います。ただ、中国人にとって、住宅、不動産というのは、ただ単に住むための場所という意味だけでなく、年に1回家族が帰ってくる場所、結婚するための絶対的条件、社会的地位と面子(めんつ)を保障するツール、他分野に類を見ない優良投資物件…とあらゆる要素を内包しています。

 中国において、不動産市場というのは、ただでさえバブル化しやすいというだけでなく、14億の人民が熱狂的に重視するが故に、格差の源泉にもなりやすいのです。中国不動産市場をめぐるバブルと格差はコインの表と裏の関係ということです。

 そして、この格差にメスを入れるのが習政権の重要な政策目標ですから、不動産企業、特に、放漫経営をしていたり、それが原因で消費者の権利や利益(恒大集団が発売する理財商品や不動産を購入した結果被害に遭った人々はその典型)をむしばんだりする企業に厳しいチェックが入るのは必然なのです。

餌食になる理由5:「本業に専念せよ」

 最後に、習政権の特徴に「本業に専念せよ」というものがあります。アリババ、アント・フィナンシャルに対する規制などにも通底するものですが、電子商取引の会社であれば、それに専念せよ、金融の分野に手を出すなら、体裁を整えてから行動せよ、というものです。

 前回レポートでも触れましたが、恒大集団は、本業の不動産だけでなく、EV(電気自動車)、サッカーチームの買収、遊園地など、本業で高レバレッジの仕組みを通じて得た収益を急速な事業拡大につぎ込んできました。そこには、上記のように、当局が不動産市場の規制強化に踏み込んできたからという背景も作用しているでしょうし、事業拡大そのものはとがめられるべきではないでしょう。

 しかしながら、恒大集団の場合、事業拡大の結果が、約33兆円という巨大な負債、そして実体経済、不動産業界全体、金融システム、人民の生活基盤の危機を招いたということで、「本業に専念せよ」という当局による指針を直接的に食らうことになったというのが私の理解です。

 以上、5つの側面から、デフォルト危機に陥っている中国恒大集団がなぜ中国当局から警戒され、指導されるに至っているのかを解説してきました。同集団の経営そのものに最大の原因があるのは言うまでもありませんが、それに加えて、習政権としての政策目標を丁寧に振り返ってみると、同集団の窮地が必然的なものであるということが分かってくるのです。

 これらの政策的背景に、どのような企業が窮地に陥るのか、逆に言えば、どのような企業が成長するのかを見ていくと、中国という、見えるようで見えない強大経済・巨大市場の実態がより鮮明に浮き彫りになってくると考えます。

(加藤 嘉一)

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