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「米中対立の狭間」で生きる日本に必要な「想像力」 「最悪のディストピアに至るシナリオ」を描く

東洋経済オンライン / 2023年12月7日 11時0分

これからの米中関係はどうなるのでしょうか(写真:barks/PIXTA)

疫病と戦争で再強化される「国民国家」はどこへ向かうのか。拮抗する「民主主義と権威主義」のゆくえは。思想家の内田樹氏が、覇権国「アメリカ」と「中国」の比較統治論から読み解いた著書『街場の米中論』が、このほど上梓された。本稿では、同書の一部を抜粋してお届けする。

3つのシナリオ

これからの米中関係はどうなるのでしょうか。世界の情勢の先行きがよく見えない以上、簡単には予想ができませんが、よく語られるシナリオは3つあります。

第1のシナリオは「ウクライナ戦争の失敗で、ロシアは軍事的にも、経済的にも急速に国力を失う。中国は少子・高齢化と『ゼロコロナ』政策の失敗と習近平独裁のせいで経済的に停滞する。アメリカは国内の分断をなんとか乗り越える」という「アメリカ一人勝ち」シナリオ。

第2は「中国が経済成長に成功し、軍事テクノロジーでもアメリカに比肩する」という「米中二極世界」シナリオ。

第3は「米中ロシアすべてが衰退し、世界が多極化・カオス化する」という「カオス化」シナリオ。

僕はこういう話については、アメリカの政治学者、外交専門家の書くものを読むようにしています。というのは、アメリカという国では、想像力をたくましく発揮して「アメリカが滅びるシナリオ」を精緻に書き上げるタイプの知性に敬意が払われるからです。

これは他国ではなかなか見ることのできない知的習慣です。SFというジャンルがアメリカで開花したという文学史的事情も関係があるかも知れません。

SFが最も好む主題は「ディストピア」です。「人間たちの愚行のせいで、文明が崩壊して野蛮状態に戻ってしまった世界」をカラフルに描くことに実に多くの作家たちが健筆をふるいました。

でも、それは別に自傷的な行為ではなく、むしろ「ディストピアを精緻に描くことで、ディストピアの到来を防ぐことができる」という信憑が存在するからだろうと思います。

SFが大流行したのは、1950年代のアメリカですが、これは「人類が発明したテクノロジーによって人類が滅びるかも知れない」という恐怖がリアルなものに感じられるようになったにもかかわらず、既存の文学ジャンルはこの恐怖をうまく描くことができなかったからです。やむなく新しい文学ジャンルの発明が要請された。

「祈り」にも似たものを内包していたSF作品

若い読者はあまりご存じないと思いますが、「世界終末時計」というものがあります。人類絶滅を「午前0時」とした時に終末までの残り時間を「あと何分何秒」という時計の針で示したものです。1947年からアメリカの雑誌『原子力科学者会報』の表紙に使われています。

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