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「起業は自己実現、でも経営は修行」である理由 元起業家・起業家・私設図書館長が組織論を語る

東洋経済オンライン / 2023年12月8日 10時30分

でも商売を駆動していくのはインビジブルアセット。信用があればバランスシート上の資産が減っても、長い目で見れば回復できるんだよ。いや、まあ少なくとも今までは「できた」と言えるかもしれない。これから先はちょっとわからない時代になっちゃったよね。

青木:先ほどの江戸時代の商人の話って、商店街の話と似ていて有限性を前提にしていると思うんです。有限性があるとある種の循環性が機能している世界だから「損して得取れ」が実感としてわかる気がするんですけど、グローバル化してしまった後は「損して得取れ」が実感としてわからないっていうのが問題だと思っていて。

「暖簾」という価値

平川:俺、MBAで教えていたときにその教え子のなかに会計士が結構いたのね。彼らに修士論文を書かせるのに、何人かの人には「暖簾」をテーマに出してたの。これは東アジア特有なんじゃないかな。少なくともヨーロッパにはないよね。「Since何年」とかって看板掲げているけど、時間的な「歴史」しかない。

ところが山崎豊子の『暖簾』っていう小説を読むと、船場の商人たちは金がなくなるとその「暖簾」を実際に銀行に持っていくとそれを銀行が預かって金を貸したんだよ。だから「暖簾」っていうのは、まさにインビジブルアセットを可視化したものなの。かつては文化として経営者だけじゃなくて銀行も社会全体の信用といったものが、実は社会を突き動かす一番大きな鍵だったことを共有してた。でもそれは合理主義的にはありえないから、どんどんなくなっていっちゃった。俺はそれを復活させたいんだけどね。

平川:内田くんの受け売りなんだけど、東アジアに独特のものとしてもう1つ重要なのが修行なんだよ。修行の目的は忘我なんだよ。則天去私なんだ。自分を捨てること。自分探しの正反対なの。

青木:そうか、そう考えると起業はある種の自己表現かもしれないけど、それから先は修行になっていくのか。

栗原:自分は完全にそう思ってます。だから中国思想とか東アジアに帰っていくんですよね。周公旦みたいに自分の周りに優秀な二番手、宰相を置いてその人の話を聞いて経営を行うほうが自分には合っているとも思いますし。

青木:そうか、だから僕が今POPERでやってる「社内ラジオ」って、インビジブルなものの存在を語り続けることなのかもしれない。目に見えないものがあるよっていう。「空有」だよね。

平川:インビジブルなものは全部金では買えないんですよ。実はいくらでもあるんですよ。金で買えるのは、目に見えるものかつ値札のついたものだけなんです。だから、インビジブルな物に価値を置くというのは、商品経済に対するアンチテーゼなんだよね。商品経済は、欲望に取り憑かれた人間なしには成立しませんよね。

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