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大正製薬の「非上場化」投資家は納得できるのか 国内では最大規模となるMBOが抱える複数の問題

東洋経済オンライン / 2024年1月12日 18時0分

大正製薬のシンボルマークであるワシのマーク(撮影:尾形文繁)

TOB(株式公開買い付け)価格が安すぎるとして、株式市場から悪評ふんぷんの大正製薬ホールディングスのMBO(経営陣が参加する買収)。8620円というTOB価格は、1株あたり純資産の0.85倍でしかない。買収側のオーナー・上原一族以外の株主からすれば、会社を解散して全資産を現金化し分配してくれたほうがむしろありがたい。もっとも、大正製薬HDと上原一族からすると、買収価格は直近の株価に56%もの高いプレミアムを付けたのだから、その他大勢の株主には配慮しているのだと言いたいのだろう。

しかし今回のMBOは、買収総額約7000億円と国内最大規模であるにもかかわらず、いくつもの問題を抱えている。

今回のTOB価格は、会社側のFA(フィナンシャルアドバイザー)である大和証券が、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)で算出した株価(8117~9594円)のレンジ内にある。大正製薬HD取締役会は、大和証券の立場について「買収者からも同社経営陣からも独立した立場にある」とし、上原一族によるMBOに賛同し、株主に応募推奨もしている。

買い手寄りに立つインセンティブ

だが、ある日本株ファンドの運用責任者は、「一般に友好的な買収の場合、中でも本件のようなMBOの場合、買収対象企業のFAは買い手の希望価格に沿った株価算定をしがちだ。DCFの前提となる財務予測も保守的にして価格を低めに出すようにする」と話す。

買収対象企業に雇われたFAには、MBO成立の暁には成功報酬が支払われることが一般的なので、たとえその報酬額が少額であったとしても、成立を望む買い手寄りの立場に立つインセンティブが生まれる。

本件でも、大和証券に支払われる報酬の中に、MBO成立を条件に支払われる成功報酬が含まれている。会社側はそれを「一般的な慣行に過ぎないから独立性に問題はない」というのだが、一般株主の立場からすれば大和証券ははたして中立なのか、疑念を生じさせる。

大正製薬HDは2023年9月末時点で、2404億円の現預金と1529億円の投資有価証券で、合計4000億円の金融資産を保有している。売上高は約3000億円だから、年商の1.3倍。だが買収価格の算定時に、その金融資産がどの程度考慮されたのか、開示資料からはわからない。

DCF法による株価は、事業から生まれる将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出したうえで、余剰現預金などを加えて算出する。余剰現預金とは、事業を回していくうえで必要な運転資金以外の現預金のこと。現預金を必要運転資金と余剰現預金に分ける際、必要運転資金を多めに見積もれば余剰現預金は当然少なくなり、株価を安く算出できる。

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