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大正製薬の「非上場化」投資家は納得できるのか 国内では最大規模となるMBOが抱える複数の問題

東洋経済オンライン / 2024年1月12日 18時0分

元社外監査役の佃氏は、旧住友銀行を退職してから20年、大正製薬社外監査役を退いてから14年が経過していることから有識者として扱い、独立性もありとしたのだろう。だが改訂MBO指針では、外部の有識者は特別委の構成員として「否定されない」としている程度で推奨はしていないうえ、一般株主の利益を図る立場であることを明確にせよと言っている。株主総会で選任されている役員たちとは異なり、外部の有識者は一般株主に対し何の責任も負っていないからだ。

一般株主から見れば、特別委員会の3人は形式的には独立性をクリアしていても微妙な立ち位置である、と言わざるをえない。

非公開化後のことは「開示しない」

一般にMBOでは、他の株主から株式を強制取得した後、買収用に設立したSPCと買収した会社とを合併させ、買収用に借り入れた資金を買収した会社に背負わせる。借金は買収者ではなく買収された会社が返済するのだ。これがいわゆる“LBO(レバレッジドバイアウト)によるMBO”だ。

非公開化後、SPCと大正製薬HDが合併するのかどうか、合併するのであればどちらが存続会社になるのかを大正製薬HDに問い合わせたが、「非公化化後のことは開示しない」とのことだった。

このため、以下は推測の域を出ないが、LBOの手法をとると仮定すると、現在無借金の大正製薬グループは5000億円超の借金を背負うことになる。三井住友銀から借りる7272億円のうち2143億円は、上原一族が大正製薬HD株の売却代金をそのままSPCに再出資するので、その資金で返済できる。その残り約5000億円が、大正製薬グループが背負う可能性がある金額という計算だ。

一方でLBOの手法をとらず、SPCを大正製薬HDと合併させず存続させる場合、借金を上原家の相続税対策に生かせる可能性が出てくる。

今回、SPCには96歳の上原昭二氏(大正製薬HD名誉会長)と82歳の上原明氏(同会長)も出資する。SPCが巨額の借金を背負うことで、SPCの株式の相続税評価額を下げることができるのであれば、当面は大正製薬HDに借金を背負わせる必要がなくなる。

遠くない将来に相続が生じた際、相続完了後に用済みとなったSPCを大正製薬HDと合併させ、その時点で残っている借金を大正製薬に背負わせるシナリオならば、上原一族はそのメリットを最大化できる。

『大正製薬上原家の発想~巨大閨閥と無借金経営の秘密』(永川幸樹著、徳間書店、1979年)によれば、上原正吉氏は「世襲によるワンマン経営」と「無借金」にこだわったという。

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