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M-1誕生ストーリーで学ぶ、「需要創造の極意」 経営学者が斬り込む『M-1はじめました。』

東洋経済オンライン / 2024年1月13日 11時30分

谷 良一(たに・りょういち)/元吉本興業ホールディングス取締役 1956年生まれ。京都大学卒業後、1981年吉本興業入社。間寛平などのマネージャー、「なんばグランド花月」などの劇場プロデューサー・支配人、テレビ番組プロデューサーを経て、2001年漫才コンテスト「M-1グランプリ」を創設した(撮影:今井康一)

令和ロマンの優勝で幕を閉じた「M-1グランプリ2023」。今回で19回目を数えるこの大会は、下火になっていた漫才を立て直すべく、元吉本興業社員の谷良一氏がゼロから立ち上げたものでした。

谷氏がM-1創設の裏話をつづった『M-1はじめました。』は、一つの新規事業の立ち上げ物語として読むこともできます。30万部を超えるベストセラーとなった『ストーリーとしての競争戦略』で著名な経営学者の楠木建氏が本書を読み、経営学的な視点から谷氏と語り合いました。

今回は前編をお届けします。

20年も続いた漫才低迷期

楠木:『M-1はじめました。』を読んだときに、タレントや芸人による芸論というよりも、企業のプロジェクトについて書かれた本だと思いました。これに副題をつけるとすれば、「需要創造の物語」だなと。

【写真を見る】M-1グランプリをつくった元吉本社員がその裏側をすべて語る本

新しい市場が出てきて、伸びている市場を取りに行く話はいくらでもあるけれど、それは商売として二流。やはり一流は自分で需要や市場を創造することです。ピーター・ドラッカーさんをはじめ、いろいろな人が経営は究極的には需要創造だと述べています。この本には、それを達成するまでの経緯が書かれていて、興味深く読みました。

谷:ありがとうございます。

楠木:今はメディアを通じて芸人のお笑いが生活のさまざまなところに入り込んでいる時代です。だから、漫才というジャンルが極めて停滞していた期間が20年も続いていたとは、想像がつきにくい人も多いですよね。

僕自身は過去の漫才ブームをリアルタイムで経験し、子どもの頃はツービートやB&Bなんかをおもしろく見ていました。それが、言われてみると、漫才が話題にのぼらなくなっていたなと。この本を読んで改めて気づきました。

谷:私が吉本興業に入社したのは1981年です。当時、関西ではダウンタウンがデビューして活躍していましたが、その後、東京に出てしまって。1980年代の終わりには、大阪でも漫才は忘れられ、一部のファンだけが見ていたような存在になりました。

楠木:当時の漫才の状況を振り返ると、テレビで漫才番組がほとんどなくなり、漫才師もバラエティ番組のレギュラーがやりたい仕事になっていたと。漫才は一部の人向けに劇場や営業先でやるものになっていたのですね。

谷:それまで私は、芸人さんのマネージャーやテレビ番組制作などの仕事をしてきましたが、その頃は僕らもそういう捉え方をしていました。漫才師が漫才に力を入れずに、目指しているのは、テレビに出たり、レギュラー番組、もっと言うと、自分の名前のついた冠番組を持つこと。漫才はその足掛かりとして、本格的にタレントとして売れるのが目標なのかなと。

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