能登半島「世界農業遺産」ブランド復興の行方 伝統と独特の景観が地震で大きな被害
東洋経済オンライン / 2024年1月16日 11時0分
能登半島地震の震源に近い奥能登をはじめとする4市5町は、「能登の里山里海」として世界農業遺産に認定されている地域である。昨年11月には「農業遺産シンポジウム」が和倉温泉で開催され、地域資源を活用した活性化への取り組みをアピールしたばかりだった。一味違った地域活性化の試みとして注目されていたのだが、今回の地震で構想はどうなってしまうのか。
独自性のある伝統的な農林水産業を営む地域
世界農業遺産とは、社会や環境に適応しながら時代を超えて継承され、関連文化を育んできた世界的に重要な独自性のある伝統的な農林水産業を営む地域、システムを国際連合食糧農業機関(FAO)が認定したものだ。世界26カ国86地域、日本国内では15地域が認定されている(2023年11月10日時点)。
「能登の里山里海」は2011年、日本で初めて認定された。日本海に面した急傾斜地に展開する「白米千枚田」をはじめとした棚田や、強い潮風から家屋を守る間垣(竹の垣根)など独特の景観が存在する。
伝統的な技術としては伝統工芸の「輪島塗」や「揚げ浜式」と呼ばれる製塩法、女性が素潜りでアワビなどを採る「海女漁」、里山の保全に密接に結び付いた「炭焼き」等が受け継がれてきた。
伝統文化としては巨大な灯篭を担いで練り歩く「キリコ祭り」や農耕儀礼「あえのこと」などの祭礼が能登各地で行われている。これらが評価されて世界農業遺産として認定されたものである。
世界農業遺産に認定された直後に能登の9市町が「世界農業遺産活用実行委員会」を立ち上げ、「いしかわ里山創成ファンド」を設立。その後「いしかわ里山振興ファンド」と改称し、基金を120億円に拡充し、その運用益で地元の商品開発や地域活性化イベントを支援してきた。
耕作放棄地でソバや大豆の有機栽培を行い特産品を開発したケース、年間1万2000人(うち外国人1700人)が訪れる農家民宿群の運営、移住者による茅葺屋根の材料である茅の生産などの事業が繰り広げられ、世界農業遺産を活用する形での観光客誘致や、景観保全、循環型農業の継承などに結び付いた。
このほかにも世界農業遺産のブランド化、金沢大学が行っている「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」という人材育成、電気自動車での快適ドライブを目指す「能登スマート・ドライブ・プロジェクト」など、さまざまな取り組みが行われてきた。
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