50年前、無名の土地がシリコンバレーになった背景 夜8時半以降は夕食を食べるところがなかった
東洋経済オンライン / 2024年1月18日 11時0分
IT産業の集積地であるアメリカのシリコンバレーはどのように生まれたのか。その理由について、ワシントン大学の歴史学教授マーガレット・オメーラ氏が5年におよぶ取材の末に書き上げた著書『The CODE シリコンバレー全史 20世紀のフロンティアとアメリカの再興』から一部抜粋・再構成してお届けします。
かつては知っている人がほとんどいなかった
スマートフォン30億台。ソーシャルメディアの利用者20億人。1兆ドル規模の企業2社。サンフランシスコ最大の高層ビル、シアトル最大の雇用者、地球上で最も高価な企業キャンパス4つ。人類史上最高の金持ちたち。
21世紀最初の20年の末にアメリカ最大のハイテク企業が達成したベンチマークは想像を絶するものだ。ハイテク業界の通称ビッグファイブ――アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグル/アルファベット、マイクロソフト――の時価総額を合わせると、イギリス経済の全体よりも大きくなる。
ハイテク界の大立て者たちは、名高いメディアブランドを買収し、世界を変える慈善組織を創設して、文字通り天に昇る勢いだ。何十年にもわたり、国の政治に対する気後れを表明してきた後で、西海岸のオフィス区画でハックされたエレガントなコードが、政治システムの隅々にまで入り込み、オンライン広告のターゲティングと同じくらい有効に政治的な分断の種をまいている。
1971年初頭に、業界誌のジャーナリストが気の利いたニックネームをつけようと思いつくまで、「シリコンバレー」だのそこに集うエレクトロニクス企業だのを知っている人はほとんどいなかった。アメリカの製造業や金融、政治の中心地は、5000キロ近く離れた反対側の海岸にあった。資金の調達金額でも、支配している市場の規模でも、メディアの注目でも、ボストンのほうが北カリフォルニアより格が上だった。
その後10年たって、パーソナルコンピュータがオフィスのデスクに大量発生するようになり、ジョブズやゲイツといった姓の天才少年起業家たちが世間の想像力をつかみ取るようになってからでさえ、シリコンバレー自体は大きな動きの中で脇役のままにとどまっていた。
風がまともに吹かないときには、黄土色のスモッグがその整然としたベッドタウン郊外地区には垂れ込めていた。こげ茶色のオフィスビルはどれも区別がつかない。そして夜8時半を過ぎたら、夕食を注文できるところは1つもない。あるイギリスからの訪問者はゾッとして、そこを「ポリエステルのホビット領」と呼んだ。
とんでもない高みに舞い上がり、そして墜落
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