「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」
東洋経済オンライン / 2024年1月22日 11時0分
近年、徐々に関心が高まっている「自然資本」や「生物多様性・生態系」。経済界も「脱炭素」に続くテーマとして注目し始めている。この背景には何があるのか。『科学と資本主義の未来──〈せめぎ合いの時代〉を超えて』の著者で、一貫して「定常型社会=持続可能な福祉社会」を提唱してきた広井良典氏が解説する。今回は、全2回の前編をお届けする。
「自然資本」への関心の高まり
昨今、「自然資本」や「生物多様性、生態系」をめぐるテーマへの関心が高まっている。
しかも、一見これらの話題からは遠い場所にいるように見える企業あるいは経済界もこうしたテーマへの取り組みを強化しつつあるのが近年の特徴であり、たとえば先般ドバイで開催されたCOP28(気候変動枠組条約締約国会議)では、「G7ネイチャーポジティブ経済アライアンス(G7ANPE)」主催のイベントに経団連自然保護協議会が共催する形で参加し、日本の関連企業が報告を行うなどしている。
つまり、これまでは地球規模の環境問題というと圧倒的に「気候変動、温暖化」ひいてはそれへの対応としての“脱炭素(ないしカーボン・ニュートラル)”が主たる関心事だったわけだが、最近では「生物多様性」「生態系」をめぐるテーマがそれと同等の注目を集めるようになっているわけである。
こうした展開について私自身は、昨年(2023年)3月に策定された「生物多様性国家戦略2023-2030」に関し、環境省の中央環境審議会に設けられた生物多様性国家戦略小委員会に委員として参加し、その前身の次期生物多様性国家戦略研究会を含め、およそ3年にわたり上記国家戦略の作成の過程にささやかながら関わる機会をもった。
加えてこれらの話題は、昨年刊行した拙著『科学と資本主義の未来』で示したような、近代科学の展開やその自然観、そして資本主義のあり方と今後の展望といった大きな視座の中で議論されていくべきテーマであり、以下こうした点について幅広い角度から考えてみよう。
昨年3月策定の上記「生物多様性国家戦略」では、前年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」でも提示された「ネイチャーポジティブ」というコンセプトが戦略の重要な柱に位置づけられた。「ネイチャーポジティブ」にはさしあたり「自然再興」という訳語があてられているが、要は「自然」あるいは生態系がもつ積極的な価値を新たな視点で再評価していこうという趣旨のものだ。
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