東南アジアで進む権威主義の深化と政治の王朝化 インドネシア大統領選でプラボウォ組が圧勝
東洋経済オンライン / 2024年2月20日 10時0分
そうしたなかでインドネシアは、2004年以来、5年ごとに大統領を直接選挙で選んできた。有権者数は2億人を超え、世界最大の直接選挙と呼ばれている。
直前に行われた南アジアのパキスタンとバングラデシュの総選挙では、野党が排除されたり不参加だったりしており、正統性に疑問がつく。それに比べて混乱の少なかったインドネシアのリーダー選びの成熟ぶりは評価に値する。
インドネシアが民主主義で最高評価
民主主義の指標としてよく引用されるスウェーデンの調査機関Ⅴ-Demは各国の政治体制を、①閉鎖型権威主義、②選挙を伴う権威主義、③選挙による民主主義、④自由民主主義に4分類しているが、インドネシアはASEANのなかで唯一、③に分類されている。つまり地域のなかで最も民主化が定着していると評価されている。
ちなみに②の選挙を伴う権威主義がシンガポール、マレーシア、フィリピン、①の閉鎖型権威主義とされるのはタイ、カンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマーだ。ブルネイは調査対象にすらなっていない。
世界4位の人口を抱えるインドネシアで2024年10月から5年間の舵取りを担うことになるプラボウォ氏は、選挙戦を通じてイメージチェンジに成功した。
1998年までの30年以上にわたり独裁体制を敷いた故スハルト大統領の娘婿であり、軍高官として特殊部隊を率いて東ティモール制圧作戦でシャナナ・グスマン現首相を逮捕したり、自国でも民主活動家を拉致監禁したりしたとして人権弾圧の主犯扱いされ、軍籍も剥奪された過去がある。
その強面、悪役イメージを払拭するのに大きく貢献したのはSNSだ。TikTokで不器用に踊るさまが「かわいい」と若年層に受けた。
17歳から選挙権を得る同国では、約2億人の有権者のうちZ世代に当たる27歳以下が23%。43歳までのミレニアル世代までいれれば34%に達する。これらの世代には独裁時代やその後の政治的混乱の暗い記憶がない。
奏功したSNS戦略にも増して、3度目の挑戦で満願成就したプラボウォ氏最大の勝因は、前2回の選挙で敗れたジョコ大統領の政策を引き継ぐと宣言し、退任間近の現在でも7割の支持率を誇るジョコ氏の人気に乗じたことだ。
ジョコ氏の長男で中部ジャワ州のスラカルタ(ソロ)市長のギブラン氏(36)を副大統領候補に据えてコンビを組んだことが大きかった。これにより現職大統領の立場を超えてジョコ氏がプラボウォ陣営に肩入れしていると有権者の目に映り、実際にジョコ氏はプラボウォ・ギブラン組を支援したといえる。
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