福永祐一、30歳を過ぎて「ゼロから学んだ」背景 執着のなさこそ、自分の最大の強みだった
東洋経済オンライン / 2024年3月6日 17時0分
誰もが「天才ジョッキー」と評する父・福永洋一が果たせなかった日本ダービー制覇、無敗のクラシック三冠。まさに全盛期のトップジョッキーが突如、調教師に転身――。その大きな原動力になったものとは?
福永 祐一さんの著書『俯瞰する力 自分と向き合い進化し続けた27年間の記録』より一部抜粋、再構成してお届けします。
とことんまで挫折感を味わった日々
北橋厩舎と瀬戸口厩舎という2つの大きな後ろ盾を失ったこと、兵庫から岩田康誠くんが移籍してきたこと、ジョッキーとしての自分に限界を感じ、本気で引退を考えたこと。
30歳前後の約2年間で、これら3つの大波が一気に襲ってきた。
精神的につらかったし、とことんまで挫折感を味わった。嫉妬にまみれた嫌な自分から抜け出せないストレスフルな日々もあった。でも、今となっては、この3つの衝撃を同時期に受けて本当によかったと思う。
なぜなら、自分にはまだやっていないことがあることに気づき、ここまでのキャリアを一度捨て、後回しにしてきた「馬乗りの技術」をゼロから学ぼうと思えたからだ。
それに、馬乗りの技術をゼロに戻したところで、戦術面で積み上げてきたスキルは残る。そこに馬乗りの技術が伴えば、もう一方のスキルの精度もより上がるのは間違いなかった。
こうした状況に陥ったとき、そこから目を逸らす人、気づかずに通り過ぎてしまう人、気づいても動けない人、あるいは動かない人。それは人それぞれだと思う。
では、なぜ自分は「ゼロになろう」と思えたのか──。それは、ひとえに天賦の才がなかったから。そして、それを誰よりもわかっていたのが自分だったからだ。このまま停滞していたら、あとは落ちぶれていくだけ。そんな自分の行く末もはっきりと見えていた。
思えば、競馬に興味がないのにジョッキーを目指すことを決めたときも、別の選択をした自分がパッとしない人生を送っている未来がはっきりと見えた。それはある意味で直感に近いものだったが、実際にジョッキーとなり、自分の限界を思い知った末の未来予想図は、より現実味を伴っていた。
そもそも自分には〝執着〟というものがほとんどない。何に対しても、固執するのが嫌なのだ。「なぜ?」と聞かれても答えに困るが、子供の頃からそうだった。そういう性質、性格なのだろう。
執着のなさこそ自分の最大の強み
たとえば何かを失うことになっても、そのぶん違う何かが得られるかもしれない、まったく新しい何かが拓けたりするかもしれないという考えになる。新しいことにチャレンジしたとして、もしそれが自分に合わないと思ったらやめればいい。それこそ、人生の選択は、自分次第で無限にあると思うから。
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