民主主義幻想が消えた「西洋」が没落する歴史的理由 『西洋の没落』の著者、エマヌエル・トッドの議論
東洋経済オンライン / 2024年3月13日 19時0分
2022年3月7日、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格停止を求める決議案の採択結果。193カ国中賛成93、反対24、棄権58となった。ウクライナ侵攻後、国連総会はロシアを非難する決議(賛成141カ国)、ウクライナの人道状況をロシアの責任とする決議(童140カ国)を採択した(写真・Michael M. Santiago/Getty Images)
今からほぼ100年前、1冊の本が書店に並んだ。それはオットー・シュペングラー(1880~1936年)の『西欧の没落』(1918年)である。フランスのアナール学派の創始者の1人でもあるリュシアン・フェーヴル(1878~1956年)は、その本が飛ぶように売れたときの様子をこう述べている。
「ドイツに一冊の書物が現れた。著者は当時無名のシュペングラーで、『西欧の没落』というセンセーショナルなタイトルが付されていた。ライン河畔の本屋の店先に山と積まれていた八折り版が当時飛ぶように売れるさまを今でも眼に浮かべることができる」(リュシアン・フェーヴル『歴史のための闘い』長谷川輝夫訳、平凡社ライブラリー、87ページ)。
ドイツの崩壊と西欧の没落
シュペングラーの名は一躍有名になったが、この書物は、第一次世界大戦の直後に出版されたことで、戦争に病んだ人々の心をとらえたのだ。敗戦に遭遇したドイツの人々の多くは、ドイツの崩壊と西欧の没落を予感し、この書物を我先に買ったのである。もちろんこれは杞憂に終わったとも言える。
それは、西欧の代わりにアメリカという西欧が出現し、それから100年、なんとか西欧の地位を維持することができたからである。
しかし、2024年現在、ガザとウクライナで問題を抱える西欧の人々は、西欧の没落と同じことを考え始めているともいえる。今まで疑っていなかった西欧の自信が揺らぎ始めているのである。
それは西欧の代表でもあったアメリカを含むアングロ=サクソン帝国の世界が崩壊しつつあるかに見えるからである。
前回私はエマヌエル・トッドの『西欧の敗北』という書物を紹介したが、そこに書かれたウクライナとロシアについては言及したが、本題の西欧については言及しなかった。今回はその西欧についての部分を紹介したい。
この書物の最後の方の11章に、なぜ世界の残りの国はロシアを選んだのか」という章がある。その中に地図が掲載されている(307ページ)。そこには、ウクライナ戦争直後の4月7日、国連総会でのロシアに対する制裁決議案に賛成した国と、反対した国が、区分されている。
断固たる非難決議を支持した国と、それ以外の国を分けると、圧倒的に多くの地域が、この決議案に積極的に賛成しているのではないことがわかる。アメリカとEUそして、日本などの一部の国を除いて、多くは、この非難決議案に、同意していないのである。
西欧を支持しなかった国の多さと西欧の誤解
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