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いったい「異次元緩和」をする必要はあったのか? 「壮大な実験」の失敗ではっきりしたことは何か

東洋経済オンライン / 2024年3月23日 8時30分

次に、黒田前総裁自らが述べているメリットがある。黒田氏は、総裁就任後1年あまりでの講演(2014年6月23日経済同友会会員懇談会)で以下のように言葉を述べている。

「異次元緩和により、日本経済の問題はこれまで需要側にあると思われていたが、それが実は供給側にある、という認識が広まってきた」

すなわち、日本経済の真の問題はどこにあるのか。需要不足だと思われていたが、異次元緩和でとことん刺激して需要不足は解消したが、それでも日本経済の問題は解決しなかったから、供給側の問題だったことが幅広く認識された、ということなのだ。

つまり、異次元緩和は日本経済の真の問題を何も解決しなかったのだ。メリットとは、需要側にあるという誤解を解いたということなのだ。

確かに、それはメリットに違いがない。だが、あまりにばかばかしくないか。われわれがバカで理解不足だったから、自分たちの認識が間違っていることを知るためだけに、副作用の大きな異常な大規模緩和をした、ということだ。しかし、それでも、誤解を続けるよりはましなので、一応メリットだったと言えるだろう。

期待に働きかけてもインフレ率を動かせない

しかし、本当に総括しなければいけないのは、リフレ派が主張する「マネーが増えればインフレになり、全部解決する」という安直な認識が間違っていただけではなく、まっとうな正統派のマクロ経済学者の認識も間違っていたことがはっきりしたことを日本中のコンセンサスにしなければならないということだ。

すなわち、中央銀行がインフレターゲットにコミット(実現に向けて約束する)すれば、市場参加者(金融市場、実体経済の市場とともに、すべての経済主体も含む)の期待が動き、期待インフレ率が上昇し、それに基づき経済主体が経済活動をすることで、実際のインフレ率も上昇し、ターゲットのインフレ率が達成されるというのは、ただの幻想であったことがはっきりしたのだ。期待は実現しない。

そして、これは当初、日本だけが特殊だと思われていたが、アメリカにおいてもまったく同じで、インフレ率のコントロールに大失敗し、アンカー(投錨)された水準になかなか戻らない。つまり、金融市場はともかく、実体経済においては、経済主体の期待に働きかけるというアプローチはほとんど効果がなく、少なくともインフレ率を、期待に働きかけることによって動かすことはできないことがはっきりしたのだ。

間違いがはっきりしたということでメリットに数えてもいいが、現実にはこの認識をあいまいにしたまま、日本社会はこの異次元緩和という「壮大な実験」の失敗を忘れようとしている。

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