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ギャンブル依存「いつか勝つ」が難しい数学的根拠 負け続けた結果、一気に挽回を目指しても…

東洋経済オンライン / 2024年3月26日 11時50分

一旦、ギャンブル依存症に罹ると、いくら数字を使って説明しても、危険性に耳を傾けなくなる。実際、筆者はポアソン分布という死亡確率のような「稀に起こる事象」を扱う統計分布を使って、パチンコで大当たりが何回か出て「勝って帰れる」確率を90年代に計算したことがある(データは実際にとって定めた数値)。

1球当たり大当たりになる確率は3333分の1、1時間に5000球打てるとして、その間に大当たりが4回以上出る確率はなんと約6.6%である。ちなみに、拙著『新体系・大学数学 入門の教科書(下)』(講談社ブルーバックス)では、ポアソン分布に関する丁寧な証明も述べ、上記の算出方法も「問題」として説明している。

その程度の確率であるにもかかわらず、大当たりが出ると、ドーパミンが大量に出て、「よっしゃー、俺の腕によって、この店を潰すぐらい出玉できるぞー」などと呆れたことを想像してしまう人もいる。そして、まったく出玉しない時間が続き、帰るときは「もう、二度とパチンコなんかしない」と心に誓って、しょんぼり帰宅することになる。

ギャンブル依存症が怖いのはここからで、数日後にはその「誓い」より勝ったときの「思い出」が強くなって、また店に出向くことになる。そのようなことを繰り返しているうちに、クレジットカードでのキャッシング、さらにはヤミ金融にも手を出すようになる人もいる。この段階に至ると、グレーゾーンのパチンコでは満足できずに、バカラやポーカーなどの闇賭博にも手を出すケースもある。一気に挽回を目指すからである。

ここで賭博に関する法律を見てみよう。刑法185条には、「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。 ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない」と書いてある。それほど厳しいとは思えないが、賭博場開帳図利罪(186条の2)には「賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する」と厳しいことが書いてある。

「数学的なものの見方」の重要性

水原氏の件は捜査が終わっておらず真相はまだわからないものの、有名スポーツ選手で違法賭博や覚醒剤にかつて関わったが、その後の人生で立ち直って立派に生きている人は、筆者が知る限りでも何人かいる。それだけに、賭博や覚醒剤で大きく躓いた人も、そのような人達を励みにして、頑張って生きてほしいのである。

最後に、「本来的に賭博は何も生産せず、人々がすでに得た収入の一部をかすめ取るだけのものである」と指摘したい。前回の記事「『GDP4位転落』日本に数学嫌い克服が必要な理由」(2024年2月20日)にも書いたが、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が公表した「世界競争力年鑑」によると、日本は1989年から1992年まで1位を維持していたものの2023年版では35位と過去最低を更新した。このような状況を考慮したかのように、政府の教育未来創造会議は理系分野の充実を目指して様々な対策を打ち出した。

数学はあらゆるものの生産の基礎となるものだけに、本稿で述べたことも参考にしていただき、「数学的なものの見方」が日本で広がることを期待したい。

芳沢 光雄:数学・数学教育者

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