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世界的シェフが大興奮「日本の"意外すぎる食材"」 「伝説の農場」を訪れ大喜びした「あの野草」は?

東洋経済オンライン / 2024年3月31日 11時30分

その地域ではありふれた存在である在来種の野菜や草花、山菜が、ときにサプライズをもたらすことがある。写真は山形県鶴岡市の「アル・ケッチァーノ」で使われている庄内野菜(写真:筆者提供)

独自の知見と技術で、名だたるシェフをうならせる野菜を作る「伝説の農家」がいる。浅野悦男、79歳。自称「百姓」。年間100種類以上の野菜を出荷している。

生産者と料理人が直接つながる道を拓いた浅野は、2023年、フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」で「テロワール賞」を受賞。

単なる食材の提供ではなく、「料理人に武器を与えてくれる」と、シェフたちは浅野を慕う。外国からやってくる名シェフたちも、こぞって浅野の農場を訪れる。

浅野の農場で、料理人たちは何を体験するのか。浅野が一流とみなすのは、どんな料理人なのか。『Farm to Table シェフが愛する百姓・浅野悦男の365日』を上梓したジャーナリストの成見智子氏が、「伝説の農家」の矜持に迫る。

*この記事の1回目:「伝説の農家」の極上野菜、3つ星シェフ食べた感想

あの有名シェフも訪れた「伝説の農場」

浅野悦男が営む「エコファーム・アサノ」の納屋に足を踏み入れると、まず目に入るものがある。壁一面に飾られた、数十枚のフォトフレームだ。

【写真で見る】世界が絶賛する「伝説の農家」の素顔と極上野菜

2010年に日本人シェフとして初めてフランス芸術文化勲章を受賞した「KEISUKE MATSUSHIMA」(フランス・ニース)の松嶋啓介氏。

「銀座レカン」の元総料理長で「ギンザトトキ」オーナーシェフの十時享氏。

自らの名を冠したレストランが長年ミシュランの星を維持しているピエール・ガニェール氏。

「世界一のレストラン」と評され、昨年京都で開かれたポップアップレストランも大きな話題となった「noma」(デンマーク・コペンハーゲン)のレネ・レゼピ氏……。

国内の有名店はもちろん、世界的に名を知られるシェフたちも、浅野のもとをこぞって訪れているのだ。

「特別な体験をした」と話すシェフもいる。

浅野はいったい、どのように賓客をもてなしているのだろうか?

「別に普通だよ」と、浅野は涼しい顔で答える。

「こっちが何か特別なことをするわけじゃないんだよ」

スターシェフが「あの野草」に大喜び

2010年にピエール・ガニェール氏が来場したときのことだ。

季節はちょうど春。シェフが来る前日に、浅野は近所の山林でヨモギを摘んだ。家に帰ってそれを灰汁抜きし、アズキを炊く。そして当日はもち米を炊き、庭に臼と杵を出してガニェール氏を迎えた。

そう、いわゆる「あんころ餅」を作ったのだ。

納屋の壁に掛かっているのは、餅つきに夢中になっているシェフの姿をとらえた写真だ。

日本人からすればあまりにもありふれた食べ物である一方、フランス人シェフにとっては「まったく新しい出会い」だった。

ガニェール氏は「興味津々だった」と、浅野は笑って振り返る。

「シェフは最初びっくりしていたけど、まあ食べること、食べること。『ヨモギはフランスにもあるけど、こういう食べ方はしない』と言ってね」

帰りがけに、「今回の日本滞在で、今日がいちばん楽しかった」とガニェール氏は言った。

その後ろ姿を見送った浅野は、「日本のレストラン業界でこれから起きる変化」がはっきり見えたという。

当時の日本では、フランス料理であればフランスの、イタリア料理ならイタリアの食材を使うのが当然だった。だが、「この先は違う」と、浅野は予見したのだ。

ジャンルにとらわれない素材使いをみんながするようになるだろう、と思った。最近、日本のシェフたちが世界的にも高い評価を受けているのは、そういうことじゃないかな。日本にしかない食材を積極的に使うようになっているね」

土の上を歩けば「通じ合う言葉」がある

2022年夏、浅野はイタリアのシチリア島で10年連続ミシュランの星を守ってきた「バイバイブルース(byebyeblues)」のシェフ、パトリツィア・ディ・ベネデット氏を農場に迎えた。

ベネデット氏は、国内でイタリアンレストランを複数店舗展開するサローネグループと提携し、東京・丸の内に「バイバイブルース東京」をオープン。開店に先駆け、自ら東京近郊の農家を回って食材を探していた。

誰が来たときでも、浅野は同じことをする。

畑を歩き、「自分がどのようにその作物を育てているか」を話し、その場で収穫して食べてもらうのだ。

試食や撮影をしながら、ベネデット氏は通訳を介して浅野の話に熱心に耳を傾ける。同行したサローネグループ統括料理長の樋口敬洋氏が、その日のことを振り返る。

「パトリツィアシェフは、浅野さんの好奇心と情熱、野菜の持つ甘み、種類の多さに驚いていましたね。あと、早採りしてミニサイズで出したり、実を食べる野菜なのに花を出荷したりといった“表現方法”が面白いと言っていました」

ベネデット氏は、昨年春にも農場を再訪。そして、収穫した野菜でサラダやパスタを即興で作った。畑に来たシェフが、「これは」と思った食材をすぐに試せるよう、農場の納屋にはキッチンがあるのだ。

浅野は、キッチンに立ったベネデット氏のたたずまいを、こんなふうに表現した。「彼女が料理をしているところを見るとね、お母さんが家族のために台所に立っているような、おおらかな風情を感じるんだ」

土の上を歩けば「通じ合う言葉」がある

ベネデット氏が作るものは「味が違う」のだと浅野は言う。

「おいしいとかまずいとか、そんな単純な次元じゃない。表現するのが難しいんだけど、もっと何か特別なものを感じたね」

浅野は、わかりやすいものさしや、表面的な言葉のやり取りだけで料理人を見ることは決してない。土の上を一緒に歩き、自分が表現するものを相手がどう受け止めるかを感じながら、そこに共通言語を生み出していく。

詳細は別記事に譲るが、「世界一予約が取れないレストラン」として知られる「noma」のオーナーシェフ、レネ・レゼピ氏が浅野を訪ねてきた際も、浅野はそういったレベルの言語のやり取りをしていたようだ。

Farm to Table――畑から食卓へ。

浅野は、そのひと続きの道を拓いた先駆者として知られている。

「百姓」としての浅野の器量は、料理人の好奇心や創造力を引き寄せる。

そこに生まれる共創が、誰にも真似できない独創的な一皿や、人の記憶にいつまでも残る一皿を生み出す力になっていくのだ。

*この記事の1回目:「伝説の農家」の極上野菜、3つ星シェフ食べた感想

成見 智子:ジャーナリスト

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