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「乳房」を手放した女性が直面、それぞれの事情 傷跡をカバーできる「ヨガウェア」を開発・販売

東洋経済オンライン / 2024年4月6日 11時40分

このとき、もし泉から女神が現れて“新しい乳房”を差し出したとしても、彼女は首を横に振っただろう。

傷跡を気にせず過ごせるウェア

「今でもお風呂に入るときなど、胸を見て“気にならない”と言ったら嘘になりますし、銭湯でまわりの人が“えっ”となるのは少し嫌ですね。でも、それ以外は支障もありません。

バリは暑いので胸の開いた服が多いですし、自分自身もそういう服を作っているので、胸元から傷口が見えてしまうことはあります。でも、私が何か悪いことをしたわけではないし、堂々としています。

ただ、バリではあまりないのですが、日本でヨガやエクササイズの教室に行くと、スタジオがガラス張りだったり、大きな鏡があったりしますよね。そうすると、どんなに胸の詰まったウェアを着ても、ポーズを取ったときに傷口が見えてしまうんです」

鏡を前に突きつけられると、“女性の胸はなめらかで、ふたつの隆起があってこそ”と、たじろいでしまう人もいる。利香子さんは自身の経験をふまえて、そんな女性たちの助けになりたいと思った。そこで、たまたま自分が作ったワンショルダーのウェアを改良してみたら、ヨガをしてもまったく傷跡が見えなくなった。これならば、胸が気になる人にも楽しく着てもらえるし、アクティブに過ごしてもらえる。

「女性が人目を気にせず過ごせたらいいなと思って、このウェアは定番で作っているんです。日本の温泉にも、傷などが気になる方のための“湯浴み着”があると聞いて、“じゃあ、温泉も大丈夫だ”と思いました。今、乳がんの治療をしていて“運動や温泉が楽しめなくなっちゃうな”と悩んでいる方にも“こういうものがあるなら安心だ”と思っていただけたら、嬉しいんです」

失乳という経験を凜と涼やかに鎮めて、利香子さんは前を向く。

「乳房を取ってから5年くらい経ちますが、当初は、まったく泣かなかったんですよ。でも、少し前に自分の内面と向き合う呼吸法のワークショップに参加したとき、急に私の胸のことを思い出して。“本当は、切りたくなかった!”って強く思ったんです。そのとき、初めて涙が出ました。ヨガや瞑想に親しんで、“よいほうに考えよう、執着しないようにしよう”と言い聞かせてきたけれど、根底には“切りたくなかったよね”という思いが息づいていたんです。泣いて、ようやくその気持ちを吐き出せてよかった。弔って改めて、見えないけれど今もそこにいる私の胸を、とても愛しく思いました」

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