1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「乳房」を手放した女性が直面、それぞれの事情 傷跡をカバーできる「ヨガウェア」を開発・販売

東洋経済オンライン / 2024年4月6日 11時40分

ところが、さらに強い思いがその決意に“待った”をかけた。

「手術の1週間ほど前、担当の先生に“先っぽ、どうします?”って訊かれたんです。先っぽって……ああ、乳首のことか。そうか、なくなっちゃうのかなって。

“あなたの場合、がんがちょうど乳頭の裏側にあるんです。取ってしまえるなら取ったほうが安心ですが、そうすると先端はなくなってしまいます。取るか取らないか、どちらでも構わないので、あなたご自身が決めていいですよ”って言われました。

でも、見た目を気にして乳首を残して、悪い細胞まで残ってまた増えたりしたら嫌なので、すぐに“取ってください”と言いました」

そのとき美波さんの脳裏に浮かんだのは、愛してやまない子どもたちの笑顔だった。

当時、娘は19歳で翌年成人式を、息子は15歳で高校入学を控えていた。

「なんとしても娘の成人式と息子の入学式を見たい。そのためにできることは全部やる。生き延びられるなら、乳首なんていらない!」

そう思って、医師に訴えた。

「乳首はあきらめるとしても、取ったあとはどうなるんだろう?と思って訊くと、“先端には、お腹の皮を着けます。改めて手術すればもう少し乳首らしく作り直すこともできますし、人工の乳頭を着けることもできますよ”って、乳頭のサンプルをたくさん見せていただきました」

色も形もとりどりの人工乳頭は、粘着剤で肌に装着して使用する。

既製品で3万円程度~、健側乳頭の型取りをして作るオーダーメイドの場合は、8万円程度~が代金の目安となる(人口乳頭等の販売サイト「BREAST CARE Mine」より)。人工乳頭を着ければ人に身体を見られる場でも違和感がないので、温泉なども気軽に楽しめる。

ところが、美波さんはあえてこのオプションを選ばなかった。

手術への恐怖

「私なりに考えがあったからなんです。それと、“先っぽ、どうします?”のほかに、もうひとつ訊かれたことがあるんですよ。“カスイ、どうします?”って」

カスイ。下垂。乳房を再建すると、どうしても左右の“垂れ具合”がアンバランスになる。術後1年くらいすれば多少均衡が取れてくるが、気になるなら健側の乳房を持ち上げる処置もできるという。夫には「やってもらえば?」と言われたが、さすがに「両胸を切るのは嫌」と、美波さんは拒否した。

同時再建ならば、乳房は簡単に元通りになると思っていた。

よく、豊胸や脂肪吸引の広告には、「傷口は小さくて目立ちません」などのコピーが踊っている。美波さんも、さもたやすく親しんだ胸が還るように認識していたが、実際はバランスをとるために複合的な施術を要した。美を返してもらう代わりに、バラエティに富んだ痛みがかわるがわる彼女を襲った。きれいな胸に戻すことを、甘く見ていた。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください