「乳房」を手放した女性が直面、それぞれの事情 傷跡をカバーできる「ヨガウェア」を開発・販売
東洋経済オンライン / 2024年4月6日 11時40分
「私はぽっちゃりしているので、お腹の贅肉を取って胸に入れるならちょうどいいな、と思っていたんですが……。いざ、切開する部分に執刀医の先生がマーキングしたとき、血の気が引きました。切腹と見まごうほどの範囲に線が引かれていて、“こわい! やっぱり、このままでいい! やめたい! やめたい!”と心の中で悲鳴を上げました。でも、声にならなくて……。そうこうするうちに先生が、“僕のチームは肥満の研究をしていまして。取り出して余った脂肪は研究に使わせてもらっていいですか?”って誓約書を差し出したんです。それに無言でサインしながら“いいんですけど……。どっちかっていうとこの手術自体をやめたいです”って沈み込みました」
乳がんの摘出から再建まで、12時間に及ぶ手術に美波さんは耐えた。
胸に入れる脂肪を取ったぶん身体の前面はへこみ、ふくよかな背面とバランスが合わなくなる。その辻褄を合わせるため、背中の脂肪も吸い出すことになった。術後は傷の痛みだけでなく、恐怖感と不安に苛まれ、彼女は悶えた。
看護師と夫があたたかく寄り添ってくれた
人魚姫は声と引き換えに美しい脚を得た。
その選択に悔いはなかったろうが、一歩歩くたび剣で刺されるような痛みに、心くじけるときもあったのではないか。
傷口が開かないよう固定されて自由の利かない身に、尿道に挿したカテーテルの痛み、胸から出たドレーンの痛み、処方された安定剤が合わずに込み上げる吐き気……押し寄せる不調にパニックになった美波さんは「こわい、こわい」と泣き出した。
必死に“元の胸”をたぐり寄せる彼女に、担当の看護師と夫はあたたかく寄り添い続けた。
「私があまりにも“こわい、こわい”って泣くので、夜勤の看護師さんが“美波さん、泣いちゃうからいてあげるね”って、夜通しついていてくれたんです。パソコンを持ってきて、私の脚におしりがつくようにベッドに座ってくれて。“私、ここで仕事してるから大丈夫だよ”って。本当にありがたく思いました。
私、不安で幻覚を見るようにまでなっていたんですよ。病室の壁紙がペイズリー柄だったんですけど、ペイズリーが襲ってくるんです。バーン! シューッ!て。本当に、ペイズリーに押しつぶされるんじゃないかって震えていました。
そんなとき、主人が来て“あのさぁ、そんな調子だと家に帰れないけどいいの?”ってたしなめてくれて。食事を摂る気力もなかった私に根気よくご飯を食べさせてくれたり、臆病な私が傷口を見なくて済むよう、代わってテープを貼ってくれたりもしました」
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