グローバリズムに変質しない「国際主義」は可能か 実践しえない「無窮の実践」というパラドックス
東洋経済オンライン / 2024年6月28日 12時30分
本来であれば格差問題の解決に取り組むべきリベラルが、なぜ「新自由主義」を利するような「脱成長」論の罠にはまるのか。自由主義の旗手アメリカは、覇権の衰えとともにどこに向かうのか。グローバリズムとナショナリズムのあるべきバランスはどのようなものか。「令和の新教養」シリーズなどを大幅加筆し、2020年代の重要テーマを論じた『新自由主義と脱成長をもうやめる』が上梓された。同書にゲスト参加している古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)による基調報告をもとに、中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣の各氏が、哲学者・九鬼周造を切り口にグローバリズムとナショナリズムを論じた座談会(全3回)の第2回をお届けする(第1回はこちら)。
「日本主義」と「世界主義」
古川:今回は「九鬼周造の哲学を切り口にグローバリズムとナショナリズムについて考える」というテーマですので、九鬼が「日本的性格について」という講演の中で論じている「日本主義」と「世界主義」との関係を、議論の土台としてお示ししたいと思います。
まず、「日本主義」は「日本人の国民的自覚に基いて日本独特の文化を強調して、自己の文化的生存権を高唱する立場」と定義されています。日本人の「国民主義」、すなわちナショナリズムです。他方、「世界主義」は、「自国を価値の絶対的基準というような独り良がりなことを考えないで自国以外の他の諸国の特色や長所をもそれぞれ認め、その正当の権利を尊重して人類共存を意図する立場」とされます。つまり、これはインターナショナリズムです。九鬼も、この意味での「世界主義」とは「国際主義」であると言っています。
そして、「両者の関係はつまりは個別と一般との関係に帰着すると考えられる」と。これは哲学的な背景の話ですが、「一般(普遍)は個別の中に現れる」という考え方です。各国の文化はそれぞれに独自の文化的感覚を持っていて、それに基づいて世界を知覚・認識する。その意味で、「各国の文化は世界全体に対して文化的個体とでもいうようなものを構造している」。これらは互いに同じではない、つまり通約不可能だと九鬼は言います。
古川:このことを九鬼は、都市の例を使って、わかりやすく説明しています。
たとえば同一の都市を色々違ったところから眺めたようなものである。都市そのものは同一であっても、それを眺める者の占める位置によって同一の都市が各々ちがった姿や感じを提供するのである。世界全体を一つの都市に譬えれば、各国の文化的個体はその一つの都市を眺めるそれぞれちがった仕方のようなものである。且また、現実としては、それぞれの立場から眺められるその都市の各々違った諸々の姿や感じから遊離したその都市の姿そのもの、感じそのものというようなものはない。その都市そのものというようなものは諸々の姿や感じの中に綜合的に与えられるのである。要するに文化的個体は歴史的、風土的に各々規定されている。世界的文化というものは各々の文化的個体の綜合の中に与えられるのである。
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