安易に「共生社会」語る人に伝えたい"危うい盲点" 一方だけが得をする「寄生」になっていないか
東洋経済オンライン / 2024年7月14日 13時0分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけではありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来の不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」(毎週日曜日配信)。第15回は「<みんなちがって、みんないい>の2つの道」です。
私が答えられなかった「娘の何気ない質問」
この10年くらいだろうか、国や地方自治体の資料のあちこちで「共生社会」というフレーズを目にするようになった。
告白すると、かくいう私も「共生」という用語のヘビーユーザーだ。人びとが共に生きる社会。私にとっては確かに心地よい響きを持っている。
だが同時に、上滑りというか、白々しさのようなものを、この言葉に感じている。そのきっかけは、娘が小学生のころにしてくれた、何気ない質問だった。
「授業で『みんなちがって、みんないい』っていう言葉と『共生社会』って言葉を教わったのね。でも、バラバラなのと、一緒に生きるのは、反対の話なんじゃないの?」
私はこの素朴な問いにきちんと答えられなかった。
お互いの価値観を認めあいつつ、共に生きていく社会。たしかに、理想的な社会だ。
だが、両者の前提に置かれているのは、「善意と良識に満ちた人間像」だ。
現実社会では、多様性と共生はイコールとは限らない。私は同調圧力が嫌いだ。だが、もしこの圧力がまったくなく、多様性が完全に認められるとすれば、各人が好き勝手に権利主張を繰り返し、対立し、社会はバラバラに分裂してしまうかもしれない。
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