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高円寺にだけ存在する「なんか自由な感じ」の正体 若者だけでなく中年にも居場所がある安心感

東洋経済オンライン / 2024年7月24日 15時0分

歌を本気で聴かせたい弾き語りの人は、ロータリー広場ではなくガード下のあたりによくいる。大体2組くらいがいつもいて、少し距離を取って座って歌っている。

ガード下は最近ちょっと再開発が行われて綺麗になったけど、まだまだ闇市みたいなボロくて胡散臭いエリアが残っていて、飲み屋が路上にたくさんテーブルを出していていつも酔客で賑わっている。

街には楽器を持っている人やタトゥーが入っている人がやたらと目につく。

中年にも居場所がある

若者ばかりではなくて、中年以上の年齢で、胡散臭い感じの見た目の人が多いことが、自分のようなふらふらした人間を勇気づけてくれる。年をとってもそういう感じでいいんだ。高円寺にいれば、ずっとちゃんとしないままで生きていけるのだろうか。駅前広場で上機嫌で缶チューハイを飲んでいる、自分より一世代上のおっちゃんたち、それを目指すべきなのだろうか。

駅から約5分、商店街の路面店なんて家賃だってそんなに安くないだろうのに、こんなに古着屋ばかりがいっぱいあってやっていけるのだろうか、そんなに古着は利益率がいいのだろうか、知らない業界の商売のことって全然わからないな、といつも考えてしまう高円寺パル商店街を抜けたところにある古いビルの2階に、小さな書店がある。ドアの鍵を開けて店に入る。今日は店番のシフトの日なのだ。

書店員としての日常

店内には段ボール箱がいくつか置かれている。今日の朝に取次(書籍の流通業者)が届けてくれた本だ。取次は店の鍵を持っているので、毎朝やってきて店の中に本を置いていってくれる。本屋で働くまでは、書店に本がこんなふうに届けられているということを知らなかった。

白い帯でとめられている箱には今日出たばかりの新刊が入っていて、青い帯でとめられている箱には以前売れた本の補充注文をした分が入っている。届いた本の箱を開ける瞬間はいつも少しワクワクする。今日はこんな本が出たのか。新刊を平台の一番いい場所にどんと積み上げる。たくさん売れるといいな。

スピーカーの電源を入れ、BGMをかけて、店内を掃除して、レジにお金をセットする。開店の準備が一通り終わると、お茶を淹れて、席に座って少しのんびりする。開店前の誰もいない店を独り占めして、ゆっくり本を読んだりする時間が一番好きだ。

ずっと「働くのは嫌だ」と言ってきた自分がこんなことを思うのは過去の自分に対する後ろめたさもあるのだけど、本屋の仕事は楽しい、と感じている。本屋が世界で一番好きな場所なので、店にいるだけで幸福感がある。毎日いろんな新刊が届くのも楽しいし、お客さんがどんな本を選ぶかを見るのも面白い。静かな空間に座ってゆっくりと店番をするのも性に合っている。

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