かつての横浜市民の足「市電」にまつわる6つの謎 ビールを運んでいた?ロマンスカーがあった?
東洋経済オンライン / 2024年7月27日 7時30分
2023年8月に開業した宇都宮ライトレールの業績が好調だという。人口減少社会におけるコンパクトシティ構想とも親和性の高い、路面電車(LRT)の「復活」に向けた先駆的な事例となりそうである。
【写真13枚を見る】1934年に登場した横浜市電の女性車掌、本牧地区でアメリカ車と併走する横浜市電の「ロマンスカー」など
路面電車は、低額な運賃で利用可能な交通手段として、かつて全国の都市に存在したが、急激に進んだモータリゼーションの波にのまれ、次々と姿を消していった。その代表的な例として横浜市電が挙げられる。今から120年前の1904(明治37)年7月15日に私鉄の横浜電気鉄道として開業後、1921年に市営化。1972年3月に全廃されるまで67年8カ月の長きにわたって横浜市民の足として走り続けた。
今回は横浜市電にまつわる“6つの謎解き”をしながら、どのような路線だったのか、あらためて振り返ってみたい。
謎の多い「市電のビール輸送」
■Q1:貨車でビールを運んだ?
横浜市電の前身となった横浜電気鉄道は、神奈川駅前(現・青木橋付近)-大江橋(現・桜木町駅前)間の第1期線を開業後、市街地の路線を充実させるとともに、本牧、弘明寺、八幡橋(現・磯子区中浜町)など、当時の郊外に向けて次々と路線を延伸していった。
このうち、とくに興味深いのが、1911年12月に本牧原(後の本牧三渓園前)までが開通した本牧線である。後に横浜市電の代表的な景観の1つになった麦田トンネル(現在は市道の第二山手隧道)を掘削する難工事を伴って開通したこの路線によって、「開発が遅れていた本牧方面には関内の豪商たちの住居や別荘が次々と建設」(『横浜市営交通八十年史』)されるなど、電車の路線延長は都市の拡大・発展を牽引する役割を担った。
【写真】瓶をわらに包んで運んだビール、戦前の女性車掌、「市電始まって以来の大椿事」を報じる新聞など、横浜市電ありし日の記憶(13枚)
本牧線は乗客だけでなく、貨車でビールも運んだ。1870年、ノルウェー出身のアメリカ人技師、ウィリアム・コープランド(1834~1902年)が山手の天沼(現在の市立北方小学校敷地)にビール醸造所を設立。これを前身として、1907年に麒麟麦酒が創立された。
この麒麟麦酒横浜山手工場は、後に関東大震災で倒壊して鶴見の生麦に移転するが、それまでの間、横浜電鉄の貨車で元町河岸(中村川に架かる「西の橋」と現・JR石川町駅の間に貨物専用の停留場があった)までビールを運び、船積み・出荷されたのだ。
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