ウォール街に定着した「ブラック・スワン」戦略 「暴落時費用対効果」を常に得られるポジション
東洋経済オンライン / 2024年7月30日 11時0分
ユニバーサの成功を見て、ヘッジファンドや大手資産運用会社に続々と模倣ファンドが誕生。ウォール街には、ブラック・スワンをブランド名に冠した上場投資信託まで登場するといった事態が生じています(写真:taa/PIXTA)
新型コロナ・パンデミックに市場が揺れる2020年3月。投資顧問会社ユニバーサ・インベストメンツは4000%を超えるリターンを叩き出した。多くの投資家が匙を投げ、多額の損失を被るなか、なぜユニバーサは莫大な利益を生み出すことができたのか。このほど上梓された『カオスの帝王:惨事から巨万の利益を生み出すウォール街の覇者たち』では、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙記者の著者スコット・パタースンが、ユニバーサの最高投資責任者マーク・スピッツナーゲルと、ベストセラー本『ブラック・スワン』の著者ナシーム・タレブが確立した投資戦略とその哲学に迫っている。本稿では、同書の一部を抜粋した第3回目をお届けする(全3回。第1回はこちら、第2回はこちら)。
「暴落時費用対効果」
ユニバーサが4000%を超える利益を上げたという話が伝わると、ウォール街中のライバル・トレーダーたちは驚いたが、その驚きには羨望とともにアーロン・ブラウンのような不信も混じっていた。
平均的な株式主体のヘッジファンドは、ゴールドマン・サックスによれば、3月中旬には14%の損を出していた。他のリスク緩和戦略も痛手を被っていた。株式と債券は同時に下落し─―通常であれば両者は正反対の動きをし、投資家にとって暴落時の防衛手段となる─―、多くのアメリカ人が老後の頼りにしている株式6割・債券4割の典型的な投資ポートフォリオの価値を無残に引き下げた。
ユニバーサは単に運に恵まれただけではないか。スピッツナーゲルは、ビル・アックマンと同じく新型コロナにパニックを起こし、市場が暴落するほうに大きな賭けをしたのではないか。
そうではない。ユニバーサは暴落時に莫大な収益を上げるポジションを常にずっと取っていた。なぜなら市場はいつなんどきでも、前触れなく暴落する可能性があるからだ。暴落がいつ起きるかは誰にも予測できない。だからユニバーサに資金を預ける投資家は暴落を心配する必要がなかった。同社の顧客は夜に安眠できた。
スピッツナーゲルは暴落後にユニバーサの投資家に送った手紙にこう書いた。「今後も、ユニバーサで大きなドローダウン〔訳注 保有資産の下落率〕から資産を守ることが、優れたリスク緩和戦略であり続けます。多くの金融工学やモダン・ファイナンスが提供する解決策にかかる不要なコストとリスクを抑えながら、たとえ暴落が続いても優れた『暴落時費用対効果』が得られることをご期待ください」。
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