ウォール街に定着した「ブラック・スワン」戦略 「暴落時費用対効果」を常に得られるポジション
東洋経済オンライン / 2024年7月30日 11時0分
ただし、スピッツナーゲルは市場の暴落の時期を予測する気はないものの、中央銀行の介入によって資金を注ぎ込まれたアメリカの株式市場(および債券市場)は長らく持続不可能なスーパーバブル状態にあり、いずれ火薬の詰まった樽のように爆発するだろうと信じて疑わない。
スピッツナーゲルの世界観の核には、アメリカ連邦準備制度はここ何十年も憑かれたようにバブルを膨らませ続けており、暴落を連発させる乾いた薪が積み上がっている、という確信がある。暴落がいつ起きるかがわかる、とはスピッツナーゲルもタレブも言わない。スピッツナーゲルが2020年の投資家への手紙に書いたように、「未来が見える水晶玉など存在しません!」。
暴落の予兆とは
しかし、市場の暴落を予測するのは不可能だと誰もが思っているわけではない。市場のノイズの中から崩壊の兆候を示す特定のシグナルを検知できる、と主張する一群の数学者が現れている。
その多くは、タレブの友人ヤニール・バーヤムのようなずばぬけた頭脳の持ち主が携わる複雑系理論という超難解な科学の一分野に没頭している。
フランス人物理学者ディディエ・ソネットなど複雑系理論の専門家は、自分の予測システムの信頼性を示す実験を考案し、いくつかは驚くべき成功を収めていた。
タレブは、市場の乱れの中には予測できるものがあるという考えに全面的に反対してはいない。そのような事象を彼はグレイ・スワンと呼び、2008年の世界金融危機はこのカテゴリーに入ると言う。
しかし、こうした災害級の事象が起きるタイミングを予測するのはとてつもなく難しく、ソネットら市場の魔術師が開発した予測ツールはリスク管理にはまったく無力であると主張してきた(この論争が第12章の中心テーマである)。
タレブとスピッツナーゲルは具体的な市場予測は控えつつも、世界の激変は繰り返し起き、株式市場も同様だという予測は立てている。備えていない者は必ず苦汁をなめる。
2020年3月に、投資家の苦しみはまだ始まったばかりに見えた。ところがその後、摩訶不思議なことが起きた。世界中の株式市場が上がり始めたのだ─―そして急上昇した。アメリカでは新型コロナが国中を荒らし回り、数百万人が職を失って大規模な経済破綻が進行しているさなかだというのに、株式インデックスは破竹の勢いで上昇し始め、何度も最高値記録を更新した。
ユニバーサが手にする利益が増えるだけの話
一見すると不合理な株式市場の盛り上がりにはいくつか理由があった。
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