ウォール街に定着した「ブラック・スワン」戦略 「暴落時費用対効果」を常に得られるポジション
東洋経済オンライン / 2024年7月30日 11時0分
ユニバーサが2020年に上げた莫大な利益は、10年単位の時間をかけて準備されたものだった。2000年代末までに同社は数十億ドルの資産を大きな損失から保護するポジションを管理するようになり、スピッツナーゲルに巨万の富をもたらした(彼は2009年に上げた利益の一部を使って、ジェニファー・ロペスから高級住宅地ベルエアの豪邸を750万ドルで購入した)。
ユニバーサの成功を見て、ヘッジファンドやカリフォルニアのピムコのような大手資産運用会社に続々と模倣ファンドが生まれた。ウォール街にはアンプリファイ・ブラックスワン・グロース&トレジャリー・コアETFなど、ブラック・スワンをブランド名に冠した上場投資信託まで登場した。
メディアの注目を集めた2020年の好成績により、ブラック・スワン戦略はウォール街に定着した。「かつて市場は株が値上がりすると考えるブル(雄牛)と値下がりすると考えるベア(熊)に支配されていた」と2020年6月の『ウォール・ストリート・ジャーナル』は書いている。「最近は別の動物が台頭しつつある。(中略)スワン投資家はボラティリティ、経時的な値動きの幅に注目する。近年、ボラティリティはデリバティブ・トレーダーの専門分野からそれ自体が投資商品に変わった」。
模倣者たち
スピッツナーゲルとタレブは模倣者が出たことに気を良くしなかった。2人は模倣者たちのほとんどが内容をわかっておらず、戦略に間違った名称をつけていると考えていた。
スピッツナーゲルとタレブのトレーディング戦略の指針は3要素からなる。
1つ、衝撃的な大きな事象が勢力をふるう未来を予測することは、不可能とは言わないまでも非常に難しい。何事も起こりうる(ブラック・スワン)。
2つ、極端な事象の破壊力は多くの人の想定を超えている。なぜならベルカーブのような標準的なリスク指標ではとらえられないからだ。これは金融市場においては、極端な事象がたいてい割安な価格をつけられており、儲けるチャンスがあることを意味する。また、大半の他の投資家が、自覚している以上のリスクを取っているということでもある。変化の兆候が周囲に山ほどあるのに明日の世界が今日と同じだろうと想定するのは、人間に共通する弱さである。人々はベルカーブの真ん中に位置する日常的な山の部分ばかりを見て、曲線の裾にある急激な変化を見ない。
3つ、利益よりもドローダウンのほうが重要だ。スピッツナーゲルは何年も前に、未来の行方に賭ける人間が忘れてはならない真実をさとった。それはたった一回の大きなドローダウンのほうが長期間重ねた小さな利益よりもはるかに重要だ、ということである。株に1000ドル投資しているとしよう。決算がかんばしくなかった、重役が不祥事を起こした、あるいは製品が売れなくなったなど、なんらかの理由で株が50%値下がりする。資産は500ドルになる。
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