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火星でコケが育てば人類は住めるようになるのか 研究者が語るテラフォーミングの意義と可能性

東洋経済オンライン / 2024年8月23日 19時0分

最初にやったのは、宇宙飛行士がいる与圧部の微小重力環境でコケを育てる実験です。こちらがスペースモス研究です。重力がほぼゼロなので、重力がある地上よりもコケは細く長く育ちました。それの遺伝子発現がどう違うのか、成長にどう影響するかを調べていて、論文がまとまりつつあります。

もう1つは曝露実験で、タンポポ研究になります。ISS外の宇宙空間では、酸素がなくコケは育ちません。まずは死ぬか死なないかを見る実験になります。コケは胞子で増えます。僕らが今使っているコケは、分子生物学の技術を用いた研究ができる最も優れたコケということで、最初に注目されたヒメツリガネゴケを用いています。ヒメツリガネゴケは茎の上に胞子嚢という袋をつくり、袋の中に胞子がたくさんあります。コケの体の中で一番強いのは葉や茎や仮根ではなく胞子だということが地上での実験でわかっていますので、胞子を曝露してどれぐらい生きているかを調べる実験をしました。

地上では僕らは紫外線を遮るオゾン層に守られていますが、宇宙空間では短波長の紫外線がどんどん当たりDNAをずたずたに壊します。紫外線はタイプA、B、Cの危険度によって分けられ、タイプCが一番危険です。大気があると、タイプCがカットされ、地上にはA、Bだけが来ます。Cが来ると高エネルギーによりDNAが切られて、生物は死にます。ところがタイプCの紫外線に曝される環境でも、コケは死ななかった。コケは強いのです。

生物はどうやって生まれた?

堀口 地球ができ上がったときは、大気がないため紫外線や放射線が強い状態だったと思います。そんな環境で、生物はどうやって生まれたのですか。

藤田 生物は水の中で増えてきました。水で紫外線がカットされるので、そこで生物は育ちました。ラン藻など光合成ができる微生物が増えて、酸素を出して、大気の層ができ上がってきました。大気ができて紫外線のタイプCが地上に来なくなりました。その状態で、5億年前にコケが陸上に上がりました。そうすると、小動物もコケをすみかにして、陸上という厳しい環境でも身を守られながら棲めるようになりました。進化によりコケよりも大きなシダ植物などが出てくると、それをすみか、あるいはえさにして、もっと大きな動物が棲めるようになったと考えられています。

堀口 コケは紫外線や放射線への耐性が強いのですね。

藤田 宇宙空間での曝露で全く死ななかったわけではなく8割ぐらい生き残り、2割が死にました。半年で2割減ったのですから、10年たつとほぼ全滅になるのではないかといった予測ができるようになります。火星や月だけではなく、小惑星に持っていった場合の生存の可能性も予測できます。 学生がレポートに「限界を知る実験は重要です」と書いてくれました。その通りです。タイプCをカットした場合はほとんど死なない。タイプCでダメージを受けることが死ぬことにつながる。真空で温度変化も激しい。その厳しい条件でも生き残ることがわかっています。死んだ原因を探るため、ゲノム配列を決めて本当にDNAがやられているかを調べる。生き残ったコケも地球上では起こらないゲノム変異が起こっている可能性があるわけです。

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