日本人の「自画像」の書き換えが必要とされる理由 「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ
東洋経済オンライン / 2024年9月5日 11時0分
加速する「スーパー資本主義」、持続可能性を前提とする「ポスト資本主義」の「せめぎ合い」はどこへ向かうのか。『科学と資本主義の未来──〈せめぎ合いの時代〉を超えて』著者で、一貫して「定常型社会=持続可能な福祉社会」を提唱してきた広井良典氏が、「日本人論」を刷新し「アニミズム文化・日本」の可能性を検討する。今回は、全2回の前編をお届けする。
失われた「日本の自画像」を求めて
「失われた〇〇年」といった表現を含め、日本社会がさまざまな面で漂流を続け、混迷しているという認識が広く共有されるようになってすでに長い時間がたっている。
こうした閉塞状況が継続する背景には、戦後の日本において“国を挙げての”ゴールだった「経済成長」という目標が、物質的な豊かさの飽和のなかで十分機能しなくなる一方で、それに代わる目標や価値、あるいは「実現していくべき社会像」を日本社会が見いだしえていないという点があるだろう。
同時に、そもそも私たちが自分たちの生きる「日本」という国ないし社会について、どのような“自画像”を描き、自らのアイデンティティをもつかという点が、現在の日本においてはきわめて見えにくくなっていることが閉塞状況の根本にあるのではないか。
言い換えれば、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛されたような、昭和の高度成長期に見られた一過的な「経済大国」的自画像に代わる、新たな日本の自己イメージの構築がいま求められているのである。
こうしたテーマについて、私は2023年に公刊した『科学と資本主義の未来』において関連する問題提起を行い、また本オンラインでの論考〈実は「世代間ギャップが大きい国」だった日本〉〈「団塊的・昭和的・高度成長的」思考からの転換期〉で序説的な議論を示したが、ここでは以上のような「日本像の再構築」という話題について、それを“「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ”という視点を中心に考えてみよう。
ここで日本の自画像あるいは自己イメージについて考える手がかりとして、いわゆる「日本人論」で描かれた日本像の展開について簡潔な整理を行ってみたい。
駆け足で議論を進めることになるが、一般に日本人論とは、「日本人(ないし日本文化)の特質」について何らかの角度から論じたものをいい、これまで無数の論あるいは著作が示されてきた。
たとえば江戸時代における本居宣長らの「国学」の系譜は一種の日本人論――特に中国と対比のうえでの日本文化の特質を論じる――とも言えるし、広く読まれている渡辺京二氏の著作『逝きし世の面影』――江戸末期から明治初期に日本を訪れた外国人が日本について記した文章を独自の視点で整理し再構成したもの――で扱われている、当時の外国人の日本に関する著作群も「日本人論」と呼べる性格を含んでいる。
高度成長期前後に興隆した「日本人論」
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