日本人の「自画像」の書き換えが必要とされる理由 「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ
東洋経済オンライン / 2024年9月5日 11時0分
それは、和辻哲郎の『風土』を若干の例外として、これらはいずれも日本人あるいは日本社会における人と人の「関係性」、あるいは「コミュニティ」ないし集団のあり方に主たる関心を向けているという点だ。
この点に関して、図を見ていただきたい。これは人間と社会をめぐるテーマを理解する際の基本的な枠組みを示すもので、土台に「自然」あるいは「環境」に関する次元があり、その上に「コミュニティ」(あるいは共同体)の次元があり、さらにもっとも上層に「個人」という次元がある構図になっている。
そしてこれらと日本人論との関係について見た場合、先ほど述べたように、高度成長期を中心とする代表的な日本人論は、この図の中での「コミュニティ」のレベル(あるいは「コミュニティ」と「個人」のレベルの関わり)を基本的なテーマとしていることに気づかされる。
裏を返すと、図のピラミッドの「自然」とか「環境」に関わる次元、つまり日本人の自然観とか、人間と自然の関係性に注目したものは少ないということだ。そして、後ほど話題にする「アニミズム」、あるいは日本文化の“アニミズム的性格”という視点は、まさにこの「自然/環境」の次元に関わるのである。
ちなみに図においては、先ほど取り上げた代表的日本人論の4作品と並んで、それに準ずるような影響力をもった著作として、
・山崎正和『柔らかい個人主義の誕生』(1984年)
・河合隼雄『母性社会日本の病理』(1976年)
・梅棹忠夫『文明の生態史観』(1967年)
の3つを加え、図のピラミッドの3つの次元に関連づけている。
ごく簡潔に確認すると、『柔らかい個人主義の誕生』は、そのタイトルが示すように当時(80年代)の日本において(それまでの時代に見られなかったような)自立性の高い「個人」が生成しつつあり、結果的にそれは「コミュニティ」と「個人」の次元がバランスよく調和した「柔らかい個人主義」と呼びうる新たな方向を示しているという内容だった。2番目の『母性社会日本の病理』は主として「コミュニティ」(人と人との関係性)に関わる内容で、議論の方向は先ほどの『タテ社会の人間関係』や『「甘え」の構造』と通底するものである。
一方、『文明の生態史観』は、ユーラシア大陸の中心に広がる乾燥地帯とその周辺の文明世界(中国世界、インド世界、ロシア世界、地中海・イスラーム世界)を「第二地域」、そこから離れた西ヨーロッパと日本を「第一地域」としたうえで、遊牧民による暴力や破壊が生じやすい第二地域から遠い距離に位置する西ヨーロッパと日本において、互いに類似した社会発展の過程があったとする内容だった。
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