日本人の「自画像」の書き換えが必要とされる理由 「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ
東洋経済オンライン / 2024年9月5日 11時0分
多少余談めくが、私はこの本を大学時代に初めて手にとった時はどこがおもしろいのか理解できなかったが、40代になりたまたま本屋で目にしたのをきっかけに再読することになり、この時はその内容に大いに感銘を受けたという思い出がある(大学のゼミでもしばしばテキストとして使った)。後の議論にもつながるが、それは“エコロジー的(比較)文明論”とも呼べるような先駆性をもった内容であり、日本人論という枠を超えた広がりをもっている。
次の『菊と刀』は、文化人類学者として幅広い業績を残したアメリカ人女性のルース・ベネディクトが、当時の“敵国”たる日本社会の特質あるいは日本人の行動様式を理解する目的でまとめた著作であり、特によく知られているのは「日本=恥の文化」、「西洋=罪の文化」という対比だろう。つまり行動や規範が、(キリスト教のような)超越的な神との関わりにおいてではなく、もっぱら他者との関係性において規定される日本社会のありようを「恥の文化」と特徴づけたのである。
3番目の『タテ社会の人間関係』は、社会人類学者で東大初の女性教授ともなった中根千枝が、インドや中国等との比較を踏まえて日本の特質を論じたもので、「場」の重視、「単一社会」としての日本社会の性格、そこでの「集団の孤立性」、ひいてはそれらから帰結する(先ほどの和辻『風土』での議論とも通じる)「ウチ」「ヨソ」の意識の強さ等を述べる内容になっている。
100万部を超えるベストセラーとなった本だが、日本社会における関係性のあり方、特に上記の「ウチ」「ヨソ」の断絶の大きさや、同質的メンバーによる集団の「一体感」の重視等を批判的に論じており、そのまま現在の日本社会にもあてはまるような中身である。私自身も共感するところが大きく、これも大学のゼミで何度か取り上げてきた。
最後の『「甘え」の構造』は、精神科医で東大教授も務めた土居健郎の著作で、書名のとおり「甘え」を日本人の心理あるいは日本社会の構造を理解するキーワードとしてとらえ、そこから日本人の精神構造の特性を論じていくものである。
英訳タイトルが“The Anatomy of Dependence(依存の解剖)”となっていることにも示されているように、(集団内部あるいは「身内」における)「依存」的な関係性のあり方に日本社会の特質を見る内容となっている。
高度成長期前後の日本人論の特徴
以上、日本人論の代表的存在と言える4つの著作について概観したが、ここで1点気づかされることがある。
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