日本企業が賃上げもイノベーションもできない訳 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」
東洋経済オンライン / 2024年9月18日 9時30分
株式市場は「企業が資金を調達する場所」ではなく、「企業から資金を吸い上げる場所」と化し、持続不可能な「略奪的価値抽出」の仕組みが企業を滅ぼすと指摘する『略奪される企業価値: 「株主価値最大化」がイノベーションを衰退させる』(ウィリアム・ラゾニック/ヤン-ソプ・シン著)がこのほど上梓された。近年、企業利益は好調と言われているにもかかわらず、実質賃金が下落を続け、消費も低迷するという現象が起きている。なぜ、そのような現象が起きているのか。同書に収録された中野剛志氏による日本版解説を掲載する。
「革新的企業」の理論
本書の著者の1人、ウィリアム・ラゾニック(マサチューセッツ大学名誉教授)は、革新的企業の理論を構築した企業組織論の権威である。彼は、2010年にシュンペーター賞を受賞し、また2014年にはマッキンゼー賞を受賞するなど、その業績は非常に高く評価されている。
本書は、そのラゾニックによる重要な著作である。
そして、本書は、30年もの経済停滞に苦しむ日本の経済政策担当者たちや経営者たちにとっては、計り知れない重要性を持っている。なぜならば、彼らがずっと追い求め、そして得られなかった「革新的企業」の理論がここにあるからだ。
特に、近年は、企業の株価は過去最高値を更新して上昇し、企業の利益も好調と言われているにもかかわらず、実質賃金は下落を続け、消費も低迷するという現象が起きている。なぜ、そのような現象が起きているのか。その答えを、本書の「革新的企業の理論」が明らかにしているのである。
もちろん、本書におけるラゾニックの関心の中心は、日本ではなく、アメリカ経済やアメリカの企業組織にある。だが、そのアメリカの企業組織こそ、1990年代以降の日本が改革のモデルとしてきたものである。
そのアメリカの企業組織がどのように変遷し、そしてどうして変遷してきたのか。本書の中で、ラゾニックは、次のように描いている。
1960年代頃まで、アメリカの企業組織では、組織能力を向上するために「内部留保と再投資」を行う戦略的管理が行われており、それによって価値が創造されていた。
また、「終身雇用」の慣行があり、労働者は安定的な雇用を享受していた。「内部留保と再投資」そして「終身雇用」はかつての日本的経営の特徴であるかのように言われているが、実は60年代頃のアメリカの企業経営も同じようなものだったのである。
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