日本企業が賃上げもイノベーションもできない訳 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」
東洋経済オンライン / 2024年9月18日 9時30分
しかも、この時期は、アメリカの資本主義の黄金時代と言われ、高成長と格差の縮小を同時に達成していたのである。
正当化された「株主価値最大化」と「削減と分配」
しかし、1960年代の株式市場のバブルが1970年に崩壊すると、金融市場からの圧力もあって、企業分割がブームとなった。さらに、80年代には、企業を分割して売り飛ばし、利益を抜き取る敵対的買収が盛んとなった。
そして、分割した企業をばらばらにして高く売り飛ばすため、労働者を解雇して人件費を削減し、株価や配当を吊り上げるといったことが行われるようになった。
その結果、企業組織の行動原理は、かつての「内部留保と再投資」と「終身雇用」から、「削減と分配」へと変化したのである。
この「内部留保と再投資」「終身雇用」から「削減と分配」への転換を正当化したのが、1970年代から80年代にかけて台頭した「株主価値最大化」というイデオロギーであった。そして、この「株主価値最大化」のイデオロギーのベースにあったのが新自由主義であり、主流派経済学の市場理論である。
主流派経済学は、資源を効率的に配分する市場原理を前提とする理論である。
この理論からすれば、市場ではなく組織により資源を配分する企業組織は、「市場の不完全性」に過ぎないものと見なされる。資源配分は、企業組織の「内部留保と再投資」ではなく、株式市場に委ねるべきである。そうすれば、株価は、価格メカニズムを通じて、企業の価値を正確に反映し、株式の売買を通じて資源の効率配分が達成し得るであろう。労働も金融も市場に委ねれば、資本も労働も市場原理によって、最も効率的に配分されるのである。
このような主流派経済学の市場理論によって、「株主価値最大化」と「削減と分配」が正当化されたのである。
この「株主価値最大化」のイデオロギーは、1980年代半ば頃から、ビジネススクールを通じて、経営者たちに蔓延していった。そして、このイデオロギーに基づく制度改革が行われたのである。
「制度改革」の嵐
その制度改革は多岐にわたるが、主なものを列記すれば、以下の通りとなる。
1982年、アメリカの証券取引委員会(SEC)は規則10b─18を制定し、自社株買いを容易にした。経営者は、報酬の一部を自社株で受け取るストックオプションを利用すれば、自社株買いによって株価を吊り上げ、自らの報酬を増やすことができる。自社株買いは、経営者の経営目的を「株主価値最大化」へと振り向ける強力な制度となった。
この記事に関連するニュース
-
トヨタがROE20%目標か その意義と日本株に与える影響は?
財経新聞 / 2025年1月11日 9時43分
-
「こしょう」への欲望が生んだ「株式会社の発明」 資本主義の最も重要な手法の1つだが副作用も
東洋経済オンライン / 2025年1月1日 8時0分
-
収入は増えないのに物価は上昇し続ける…国民にだけ我慢を強いる自民党政権の「無責任」を許していいのか
プレジデントオンライン / 2024年12月21日 7時15分
-
物言う株主エリオットが狙った東京ガスの「急所」 低株価の原因見抜き、還元、資産売却へ圧力
東洋経済オンライン / 2024年12月20日 8時10分
-
株式会社ウィザスのコーポレートガバナンスの改善を確認
PR TIMES / 2024年12月17日 18時45分
ランキング
-
1「国はずるい」宮城の村井知事が憤り 旧優生保護法補償法で被害者対応を自治体に丸投げ
産経ニュース / 2025年1月15日 14時42分
-
2【速報】大学生暴行死 主犯格とされる18歳男ら2人の実名公表 少年含む4人を起訴 札幌地検
STVニュース北海道 / 2025年1月15日 14時39分
-
3小学校花壇にシカの頭部か、岐阜 埋められた可能性、腐敗なし
共同通信 / 2025年1月15日 12時4分
-
4大統領拘束に「重大な関心」 日本政府、韓国と緊密に意思疎通
共同通信 / 2025年1月15日 12時7分
-
5「都議会自民党」会計担当を週内にも立件へ、パーティー収入3000万円不記載か…東京地検特捜部
読売新聞 / 2025年1月15日 5時0分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください